35話
[2/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
。
「見に行こうかな」
エレアは、うんともすんとも言わずに、やはり何か不安げな表情をしていた。手を握る彼女の力が微かに強まった。
「エレアも行きなよ」
洞窟の向こうから声が響いた。目を覚ましたエルシーは盛大に大欠伸をして涙を滲ませていた。
エレアが背後を振り返る。そうしてまたクレイを見上げても、エレアはまだ決めかねているようだった。
「あたしは別に一人でも大丈夫だよ。熊でもいりゃ恐いけどさ。『敵』だって居ないんだし」
だから行きな、とエルシーが表情を緩めた。
「じゃあ、わたしも行く」
意を決したようにエレアがクレイの瞳を覗き込んだ。そんなに重大な決意が必要なのだろうか。微笑ましいような、なんというか。ともかくおう、と頷いた。
実際に洞窟から出たのは、すっかり焼かれてしまって木の棒に厳かに磔にされた蛇を3人でむしゃむしゃと食らってはやたらと多い小骨を吐き出して朝飯を済ませて30分後だった。E型サバイバルキットの携帯食糧は左程美味しくも無いが、いざという時のためとっておいた方がいいという考えから携帯食糧には手は付けなかった。
洞窟の外に出てみれば、昨日と左程違いがあるようには感じられなかった。吹き付ける風の素っ気なさは相も変わらずで、風に乗って肌を叩く温い雨の厚顔さは昨日ぶりの友人のそれだった。分厚く墨を流したような雲の切れ目から困惑したように顔をのぞかせる明るい光がなければ、昼を過ぎて夕暮れを待つあのどっちつかづな時間帯と勘違いしてしまうところだ。
「行こう」クレイと同じように空を見上げてから、左手の小指に小指と薬指を絡めたエレアは奇妙な顔をしていた。その顔色の名称をクレイは知らなかったから、特に気にも留めずに森の中へと分け入っていった。
雨が降りしきった森というのはとにかく最低だった。ぬかるんだ地面はぬるぬると滑るし、それに輪をかけて濡れた植物が意地悪く足を掬うからだ。事実、クレイは何度目か転びそうになった。
正直に言えば―――クレイは自分の左手を見た。クレイの手を視線でなぞれば、小指だけを絡めたエレアの右手が果敢無げに繋がっていた。手を繋いでぬかるんだ道を歩くのは予想以上に難しかった。しかし、エレアは一向に離そうとしなかった―――それどころかなおもって濃く接合しよう薬指まで絡めてくるのであった。クレイはそれを拒もうともしなかった。歩きにくいことなど、彼女と微かに接触しているこの仄かな喜びに比べれば、取るに足らない些事でしかない。
浜辺の途上、クレイとエレアは特に言葉を交わさなかった。クレイと同じように、エレアもあまり喋る質ではなかったし、2人は関係性に対してそこまで緊密なプライベートで築かれているわけでもなかった。畢竟、クレイは今日も雑談のネタを持ち合わせていなかったのである。その上エレアはいつにもまして
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ