35話
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朝、クレイは絶叫のような空の裂ける音で目を覚ました。
雷が鳴る音が酷く鼓膜を切り付ける―――朦朧とする知覚を明瞭な意識で無理やり叩き起こす。穴倉から外を見れば、未だ空は薄暗く、大粒の雨が飽きもせずに降りしきっていた。
スコールとは急に訪れて急に去っていくものではなかったのか? 自分の認識違いだろうか―――だが、長時間の雨ならそもそも事前の気象予報に出てもいいものではないのか? コロニー内の気象を制御するシステムに不具合でも生じているのか―――。
奇妙な違和感を抱きながら、クレイは考えないようにした。今考えるべきは漫然とした不安ではなく、眼前の諸問題の解決だ。
とはいえ、とクレイは入口付近まで歩いていく。近づいてみれば雨脚はやや落ち着いているようだが、強いことに変わりはない。波が高ければ、ゴムボートの脱出は非現実的だろう。ゴムボートの中にあった発煙筒は雨風が強いためやはり無駄だ。そのほかにも色々考えたものの、畢竟たった今解決しなければならない緊喫の課題は無かった。
背後で低く響く唸る静かな音が耳朶を打つ。振り返れば、眠そうに目元を擦ったエレアが可愛らしい声で欠伸をしていた。瞼をぱちぱちと上下にう7う7しばたたかせながら、ゆっくりとした動作でこちらを向けたエレアは、そのままぼーっとクレイの方を眺めた。
「おはよう、エレア」
エレアは応えず、しばらく漫然とクレイを眺めた後にいきなり奇声を上げて立ち上がった。突進する勢いでクレイの側に来て、手を痛い程に握りしめたエレアの形相はいつになく必死だった。
「大丈夫なの? 足痛くない? 疲れはとれた? えっとそれから……」
アサルトライフルの火箭のごとく捲し立て、忙しなくぶつぶつ喋る姿に圧倒されながらも微笑を浮かべた。大丈夫だよ、と彼女の頭に優しく触れた。海水を浴びた髪は少しざらついていた。
「ほんとにだいじょうぶ?」
「本当に大丈夫だよ」
安堵したように顔を緩ませながら、しかしエレアは何故かしゅんとしてしまった。
「雨、まだ降ってるね」
外の方に目をやったエレアが物憂げに呟いた。エレアもまたこの雨に疑いを抱いているようだった。そうだね、とクレイも雨空を眺めた。
「ボート大丈夫かな?」
「ボート?」
「流されないかなって」
エレアがクレイを見上げる。何故か彼女の瞳も声色も、妙に『ずれて』いるように感じた。頭に引っかかるような、と言ってもよかった。「ボートはしっかり固定したけど」とは言いながらも、この答えはエレアの不安に直截に応えていないという当ての無い不安感は、次第にクレイの中で増幅していった。
見に行った方が、良いだろうか。雨はまだ降り続いていたが、昨日よりもほんの少しだけ弱まっているようでもある。雨に塗れるのは気が進まないが、逆に言えば問題はそれだけでもあった
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