34話
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「こちら『アカデメイア』、報告了解した。爾後別命なく待機せよ。オーバー」
どこか緊張気味な女性の通信士の声が耳朶を打つ。
計器の光と、微かに灯されたLEDライトだけが侘しく光を放ち、宵闇が重く沈殿していた。
淡い光を受けた男が身動ぎする。
「もう少しですね、」
それに合わせるように、無線通信に従事していた、もう一人の通信士が鈍色の声色で言った。
言われた男は、くぐもった声で通信士の声に頷いた。腕組みはそのまま、男の顔は多少なりとも変化はしなかった―――が、大柄な男の顔には確かに期待の色があった。それを通信士も了解している。頷き一つで、再び自身の仕事に戻った。
と、軽くドアをノックする微かな音が部屋に不気味に響く。不規則に、一定のリズムで耳朶を打った軽い音に、男は視線を横に流す。部屋にいたもう1人の男がアイコンタクトで了解すると、音も無くドアの方へと向かう。そうしてドアの前に立つと、今度は内側から、ドアへと向かった男が軽くノックした。それに応えるように、再び向こうから木製のドアを叩く小気味良い音が鳴る。
男がドアノブに手を伸ばす。仄暗い光を受けて陰鬱に光を放ったアルミニウムのドアノブを音も無く半回転させると、静かにドアを引いた。
「やぁ、調子はどうだい」
ドアの向こうから顔を出した男は、その重たい空気とは不釣りあいに柔和な笑みだった。元々、そういう人物であることは大柄な男も承知していた。そうして、そんなことよりも重要なのは、この男が自身の眼前に居るということだった。
素早く敬礼すると、男は満足げな顔をした。
「いつ、こちらへ?」
敬礼を下げ、自身より年下の男の顔を伺った。薄暗い部屋では、はっきりとは見えなかったが、笑みは変わらず湛えているようだ。
「ついさっきさ」
「よろしいのですか。わざわざ貴方が来るまでもないでしょう―――『エウテュプロン』?」
「責任者は責任を取るためにいるんだよ、『ラケス』。僕はこの目で見届ける責任と義務がある。それに、大臣さまは知らぬぞんぜさ。味方だよ、『ジオン』は」
衒いも無く、気品高く『エウテュプロン』が嘯く。『ラケス』と呼ばれた男は、頷き1つを返した。
最もだ、と思った。上に立つ人間とは、ただ黙して背負うのみ―――。
「そうだ。君たちにこれを届けようと思ってね」
ごそごそと身動ぎした『エウテュプロン』が紙袋から細長い箱を取り出すと、蓋を開けた。カラメル色の液体が、クリスタルのボトルの中で妖艶に光を放っていた。
「油断は禁物とは古来より伝わる格言ですが」しげしげと高級ブランデーを眺めた『ラケス』が声に出した。
「至言だな」底抜けの微笑を浮かべる。紙袋からワイングラスを5つ取り出した。「だが気つけも必要だろう? 日本(ル・ジャポン)でもかつては鏑矢なるものを使
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