34話
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と看病してたんだから。礼ならエレアにしてあげてよ」
それでもクレイはエルシーに礼を言って、そうしてエルシーはまたうーとくぐもった唸り声を上げてyou’re welcomeの意を表象した。
火の燃えるパチパチという密やかな音が鳴っていた。エルシーの芋虫を食べる水っぽい音が響いていた。エレアの寝息が蠱惑的に鼓膜を愛撫した。外では、未だに吹き荒れる風と雨のごうごうとした音が入口から侵入していた。クレイは、ただ無言で木の棒の切っ先で絶命した蛋白塊を眺めていた。
なにか喋った方がいいのだろうか―――。クレイ・ハイデガーは、いかにもフィロソフィカルな気難しい顔をしながら、なんとも凡庸な思案をしていた。なんとなく、気まずかったのである。クレイは未だに交流の少ない人間と愉快に喋ることができない癖に、誰かと居る時に沈黙が訪れると奇妙な不安を感じるのである。クレイは別に人と喋るのが嫌いなのではない。好きだが、苦手なのだ。
エルシーが立ち上がる。やはり覚束ない足取りで焚火の側に行って蛇の焼かれ具合を見ると、もう一本木の棒を取り、セミの幼虫の串焼きを手に取った。彼女が踵を返してまた座るまで何か話題がないかを思案した。そして、彼女が座ってもう一匹虫を食べたところで彼女に声をかけた。また、うーとだけ唸って、エルシーは応じた。
「最近面白い本を読みまして……」クレイは考えあぐねた結果、そんな話題しか選択できなかった。「ニュータイプについて面白いことを言っている人がいたんですよ」伺うようにエルシーに視線をやった。
微かに身動ぎした。エルシーの反応はそれだけだった。やっぱりそうだよな、とクレイは俯いた。今時ニュータイプなど古臭い世迷言でしかないのが通俗の見識である。16歳の少女が興味を持つような話題じゃないよな、と自分の物わかりの悪さに絶望しながら、クレイはやっぱなんでもないですと芋虫を食べた。じゃがいもとかぼちゃの出来損ないのようなベジタブルな味だった。
「なんでやめるんだ?」
音も無くこちらを見たエルシーの目は、何故か非難の色に満ちていた。
「つまらないかもしれませんよ」目を丸くした。予想外に、エルシーは興味を示したのだ。
「いいから。ニュータイプについては色々興味があったんだ」
そうですか、と言ったクレイは、奇妙なほどの満悦を感じていた。ただ、自分の勘違いな話題のチョイスが彼女の琴線に触れるかもしれないという事実に朴訥に喜んでいるだけだった。クレイは単純で、子どもっぽかった。クレイ自身は露ほども自覚がなかったが。
「この虫が居るでしょう?」
「お?」
エルシーがクレイの手先に磔にされた虫を見やる。
「あの蛇でもいいんですが……とにかく、人は食物を食べるでしょう? 牛でもいいし豚でもいい。ヴィーガンの人は野菜ですか? まぁなんでもいいんで
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