34話
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対する喜び。内側から鼓膜を叩く拍動音を感じながら、クレイは彼女の腰に手を回した。
「じゃあ応急処置はエルが?」
クレイが左内腿の患部を見やれば、エレアが腰に巻いていたシースルーのパレオを加工した布が血流を止めるためにしっかりと巻かれていた。
「あーまぁ、そうなんだけどさ」
ばつが悪そうに人差し指で頬を掻く。すっくと立ち上がったエルシーが焚火の近くに行くと、地面にへばっていたロープのようなものを持ち上げた。
1mほどの長さの鮮やかな青銅色のロープ―――凝視して見ればそのロープは末端部分が小さく萎んでおり、そうして鱗があり。エルシーが握っていた部分には頭があり、淀んだ1対の眼が当ても無く虚空を眺めていた。
「ヘビ?」
再び肌がぞわぞわと粟立つ。
「アルバーティスパイソン。ニューギニア島原産のヘビだね。ちなみに無毒」
ぷらぷらとヘビの遺骸を揺らした。
無毒―――無毒?
まじまじとエルシーを見やると、うん、と頭を縦に振った。
「噛まれたときから気づくべきだったよ。ヘビ毒はそもそも神経毒と出血毒だろ? 急に意識を失うなんておかしいんだ。アナフィラキシーショックの可能性も呼吸も心拍数も正常、傷口以外痛がってるようでもないから無し。エレアがわんわん泣いてたからあたしもビビっちゃっただけで、ヘビを捕まえてみたら無毒だったってこと」
「じゃあ、俺はなんで?」
「さぁ? あたしは別に医者じゃないし」エルシーはヘビの気だるげな身体をじろじろ眺めていた。「ただ、ちょっと疲れてたんじゃない?」
どれほどの時間か、放心したままエルシーの顔を眺めていた。物理的時間は左程経っていないハズだ。クレイの感覚にしても、多分長くは無かった。とにかく、胡乱気な顔をしたエルシーの咎める声を聞くことで我に返った。
疲れた?
どこで?
何故?
思い当たる節はとんと無かった。
「よくあることだよ」そこらへんに落ちていた木の棒でヘビの首元(?)付近を弄った少女は、肩を落とした。そうして顔を上げ、お道化たように身を竦ませて見せた。
「疲れというのは気が付かない内に蓄積されていくんだよ。そして、いつの間にか―――ってな具合なわけ。毎年過労死で何人死んでると思う?」
そういうもの―――なのだろうか。自分の左手を握っては広げる動作を繰り返してみる。
人間の身体は頑丈だが脆いもので、ちょっとした環境の変化で体調を崩す―――ということは、確かによくある経験だ。自分では気づかぬ間に―――なるほどエルシーの言うことも最もだ。
クレイがそれとなく理由づけして納得している一方で、とうとうヘビに興味をなくしたエルシーが顔を上げた。
「これ皮剥ける?」
座ったまま、首を掴んだヘビを持ち上げた。尻尾を振り子のように揺らした青銅色の亡骸も、途方に暮
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