34話
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っていたそうだからね」
ワイングラスに滔々と琥珀液が注がれる。クリスタルボトルの中に傲岸な素振りで居座る高級ブランデーも、眼前の男にしてみればちょっとしたファッションでしかなかった。
さぁ、とグラスを差し出す。しばしグラスの底に薄く微睡んだコニャックを眺めた『ラケス』は、礼と共に受け取った。
手のひらをグラスの底にあてる。甘さを増した香りが鼻の奥を擽った。
「我らに勝利の栄光を―――」
※
重い―――。
弛んだロープのようにばらけた思考のまま、重たい瞼を開けた。
火に擽られた樹木が笑いを押し殺したようにぱちぱち爆ぜる音が外耳に吸い込まれる。丸い光に照らされた空間の隅では、無思慮な光に照らされた闇夜が憤然とした顔で腕組していた。それでも黙然としているあたり、闇夜は寛容な心の持ち主だった。
「ようやく王子のお目覚め?」
誰かの声が耳朶を打った。のろのろと声の方―――正面の方に顔を向けた。
栗色の髪の下で、サファイアの光がクレイを眺めていた。
「おはよう、クレイ」
片足を抱えた少女が向かい側の壁に寄りかかったまま、ころんと首を傾げた。
ぼんやりと思考がまとまり始める。
ここはどこだろう―――密閉空間をきょろきょろと見回す。固い岩壁に覆われた空間の一方のずっと奥では突然押しかけて来た来訪者に顔を顰める暗がりがたむろしており、その向こうには同じように岩の壁がある。もう一方の向こう側からはごうごうと耳障りな音が吹き抜け、底抜けの夜に刳り貫かれていた。
洞窟。
そんな言葉が前頭葉ブローカ野から滲み出て来た。
そう、洞窟。クレイは洞窟を目指していた。そうしてその途中蛇に噛まれて―――。
一気に意識が鮮やかに輪郭を描く。ざわと肌を粟立たせ、起き上ろうとしたクレイは、自分の身体に圧し掛かる仄かな重さを今更に判断した。
長く垂れた液体プルトニウムの髪が地面まで流れていた。艶めかしい高麗白磁のような白い肌は、しかし勃起してしまいそうなほどに柔らかかったし、人間の熱を孕んでいた。彼女のうなじから漂う甘ったるい匂いは、暴力的にテストテロンとアンドロゲンを蒸留させた。
クレイの胸板を枕にし、エレアはすやすやと寝息を立てていた。胸に添えられた彼女の指先が、その奥の核を擽った。
「エレアはあんたのこと本当に好きなんだね」
抱いていた足を伸ばし、もう片方の足を折り曲げて身体に寄せたエルシーが柔和な笑みを浮かべる。
「クレイが蛇に噛まれたときとんでもなくパニクッてね、尋常じゃなかった。ずっとあんたの名前を呼んでたよ」
エレアの顔を間近に見る。穏やかに澄んだ少女の顔をよく見れば、目元が微かに赤らんでいた。
心臓がぎゅっと縮む。心配をかけてしまったことの申し訳なさと、彼女の心の内に
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