33話
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いのだろうか、と不愉快な気分になりながらエルシーの肩越しに向こうを見ると、やや思案した後に彼女も小さく首を縦に振る。
「もうちょっとって、知ってるの?」
「ガキの頃にリゾンテには観光でちょくちょく来てたから。まぁこの島には来たことないけど、だいたいわかる」
感心したようにエレアが相槌を打つ。クレイも内心感心しながら、水に塗れたエルシーの横顔を伺った。慣れた人間だからこそ、自然とわかる像的思考。直感という奴だろう。裸足で歩いているせいで石を踏んだ足が痛いことに気を取られていたクレイは、なんだか情けなくなった。
それにしても、小柄だけれど結構大人っぽい顔だなと思った。切れ上がった目元に深海を想起させる、澄んだ蒼い瞳―――。
不意に記憶野のどこかが白く閃いた。大分、昔のこと―――嫌な思い出だった。慌てて記憶どこかに押し込めた。
軽い足取りでエルシーが数十mほど先に行くと、つと足を止める。
「あったよ!」
振り返ったエルシーが嬉々とした黄色い声を張り上げる。
本当に見つけたことに目を見開く。エレアと目を見合わせれば、心境は同じらしい。しばし同じ視線を絡ませ合った後、互いに顔を緩ませた。
強くクレイの手を握ったエレアがひっぱるように駆けていく。
「急ぐと転ぶよ」
よたよたとエレアの後を追いながらも、クレイも表情筋が弛緩するのを感じた。未だ止む気配のない雨脚からして最悪今日1日帰ることすらできない恐れがある。比較的素早く雨を凌げる場を得られたことは行幸だろう。
「ほらほら、はやくはやく!」
手を離したエレアが跳ねるように先を行く。催促するようにくるりと銀の光の尾を引かせて振り返る。そうして何度目か振り返ろうとした拍子に、少女の影が小さな悲鳴を引き摺って背中から倒れ込んだ。
急いで近寄り、足元に目を落とすと、どうやら隆起した樹の根に足を躓かせただけだったようだ。エレアも自分の足元を確認すると、気まり悪そうな笑みを見せた。
「足とか挫いた?」
「ううん、大丈夫」
胸を撫で下ろしながら手を差し出すと、彼女の小さな手がクレイの手に触れる。触れたエレアの手は降りしきる雨ですっかり冷たくなっていたが、顔色はむしろ艶やかだ。不意に倒れたのには動顛したが、無用の心配だったというわけだ。
安堵に気が緩むのを感じながら、細く艶めかしい白い腕を引く。木炭のように軽い彼女の身体は、苦慮も無く起き上り―――。
何かが、蠢動した。網膜に映り視神経を這いまわった刺激は脳の側頭葉を駆け抜け、後頭葉を励起させる。
神の感覚器官が細長い青銅の蠕動を蛇、と判断するより早く、クレイは彼女の肩を押して身体を突き飛ばした。
左足の内腿を起点とした鋭角の刺突が神経を暴れまわった。
噛まれた。左足に灯った熱を疼痛と判断しかけたクレ
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