33話
[4/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
レイは、のろのろと立ち上がった。
「エレア! そろそろ行こう!」
横隔膜を下げて肺一杯に空気を吸い込み、一息に声を搾りだす。こちらを振り向いたエレアは、しかし聞こえていなかったらしい。満面の笑みをしながら、手を大きく振って喜びを最大限に示していた。
もう一度同じ一連の動作を繰り返したところで、わなわなと身を震わせたエルシーがずんずんとエレアのもとへ行く。
「あ」
手を振り上げたエルシーがぱかん、とエレアの頭を叩く。そうして怯んだエレアをずるずると引き摺ったエルシーがクレイの傍に来る―――。
「さぁ行くぞ」
「はい……」
じっとりした目つきでクレイを見上げたエルシーはエレアを離すと森の方へ向かっていく。酷く苛立っているらしい。露出した背中は、案外筋肉質だった。
「痛いよう…悪いことしてないのに…」
頭を抑えたエレアが涙ぐんだ目でクレイを見上げる。びしょ濡れになったシースルーのパレオがべっとりと下半身に巻き付いていた。
「まぁ、大丈夫だよ」
頭部の患部を撫でる。こくんと頷いたエレアは、頭に乗せられた手を握る。彼女の手を握り返しながら、エルシーの後に続いた。
森の中に入れば、また雨の音は違った様態を現した。ただ殴りつけるだけの暴力的な音はやや鳴りを潜めた代わりに、木々や葉を打ち付ける真っ青な音が密閉空間を木霊し、薄暗がりも相まって不気味が頭を垂れているようだ。その暗い感情は、何も根拠のない不安感というだけではなかった。熱帯の密林は、多くの危険がある場所でもある。この豪雨、さらにレジャーコロニーにわざわざ危険生物を放し飼いにしているとは思えないが、こんな雨を降らせる『公務に忠実な方々』である。仕事熱心が相まって―――ということだって、有りうるわけだ。
雨滴を避けるように手で顔を遮り、空を見上げる。スコールは不意に訪れ、不意に去っていくものというのが地球における熱帯密林型気候の通例だが、どうやらここは違うらしい。金属水素のような厚顔な雲が益々驕慢さを増していた。
「大丈夫?」
隣を歩いていたエレアが不安げな顔でクレイを見上げる。頷きながら前を見れば、巨木に身を預けたエルシーが随分前からこちらを見ていた。
静かに、音も無く舌を打つ。オールを握りっぱなしで感覚が鈍くなった右手で爪を立てながら髪をかき上げた。
士官学校時代はもっと過酷な訓練だってやってのけた。4日間密林でのサバイバル訓練に明け暮れたことだってある。この程度は、大したことがないハズなのだ。
疲れているのは気のせいなのだ
鈍く握りこんだ握り拳で太腿を叩く。疲れているのは気のせいだ、と活を入れた。
「もうちょっとだけど休むか?」
エルシーのところまで行けば、再びその問いに直面してしまった。
「いや、もうちょっとなら行こう」そんなに顔色が悪
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ