33話
[1/6]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
なんでこんなことになっているのだ―――?
腕と脚の筋肉が悲鳴をあげる。
身体を縮めてはドライブし、そうして手許に思い切りオールを引く。ブレードが海水を押しやると、微かにだがクレイの乗るボートが進む感触があった。微かにである。
「ほらほら頑張れ頑張れ〜」
ボートの真ん中で手を叩くエレア。途中までは笑みとともに応じていたが、もう疲労困憊でそれどころではなかった。
「お前もやれよな……」
エレアを挟んでクレイの向かい側では、ひーこら喘ぎながらエルシーがオールを漕いでいた。必死な形相で汗だくになりながら漕いでいるところを見れば本気になっていることはわかるのだが―――何分手漕ぎ方がわかっていなかった。そもそも、エルシーはサナリィとの技術交流目的でアナハイムから派遣されているメカニックの卵だ。しかも軍属というわけでもないのだから、ボートの漕ぎ方など知らなくて当然である。
必然、ボートが漕げるのは軍属のクレイとエレアということになる。そうして、今はローテーションの関係でエレアが休憩する時間だった。
「ダメだ……死ぬ……」
力なくオールから手を離す。
クレイも体調が万全というわけではなかった。というより、前日からの寝不足をコーヒーのカフェインでブーストしてなんとかしている状態―――畢竟、ヘロヘロだった。オールをなんとか握っているだけなのである。
「代わろうか?」
「いやいやいやいや次の休憩は私の番だろう!?」
「―――代わらなくてもいいからちょっとだけ休憩させてくれ。そうしたら頑張れるから」
うーん、とクレイとエルシーを不思議そうに見比べる。うんうんと首をぶんぶん縦に振るってエルシーが同意を示したのもあって、しばし潮に流されるままにしておいた。
それにしても酷い人選だ、クレイは思った。
クレイとエレアを一緒にした理由はまぁ、良いだろう。だが何故エルシーが同じボートなのだろう。
そもそも、このボートレースはアナハイム・エレクトロニクス社によって執り行われているものだった。MSの研究に乗り出したサナリィに対し、現在のアナハイム社は友好的に手を取り合っていこうという指針のようだ。エルシーらアナハイム専高から派遣されてきている人員は、技術交流の一環という一面も強いがどちらかと言えば友好の証のためだった。技術交流ならば既に現場に出ているメカマンが来て然るべきであるし、そうして実際サナリィが宇宙でMSの稼働試験を行っているニューエドワーズには数多くのアナハイム社の整備士が来ているのだ。
第666特務戦技評価試験隊がサイド3に訪れてより1か月。その間機体の整備などに勤しんだアナハイム専高の学生の慰労も含め、様々な上の人間の配慮によって行われている―――と言えば、うんと頷くしかない。
「なんだよ」
正面に座るエルシーが顔を
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ