32話
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スは、そのままコテージの部屋に備え付けてあった色褪せた木製のデッキチェアの背もたれに身を任せた。
画面に映った情報は、ニューエドワーズに残したままのインフォーマーから送られてきた暗号通信を解凍したものだ。だからこそ、その文字面の中に不意に浮かび上がって来た見慣れない―――見慣れているが見慣れない言葉に思わず声を上げたのだった。
クセノフォンだったら知っているだろうか―――思い立ったが、今は無駄だった。クセノフォンは今しがたビーチの方へ水着一丁で全力疾走していったばかりである。
フェニクスは立ち上がった。そのままコテージの窓の傍に寄り、開け放たれた外の世界を網膜に映した。
空を見上げる。人工太陽の焼き付けるような光が一瞬で視神経のキャパシティを超え、思わず目を瞑る。そろそろと目を開け、遼遠まで遥かに伸びる大洋を眺めた。
白い砂浜に打ち寄せる静かな蒼の水面に映った眩い閃光―――思わず舌打ちした。だが、それでも物にあたるほど子どもではなかった。苛立たしげに空を―――忌々しい人工の太陽は目に入らないように―――空を、見上げた。
何の変哲もない空だった。空の向こうに海がある光景も、慣れてしまえばなんでもない光景だ。一見可笑しな光景なのだが、科学技術に成り立っている光景と思えば何も疑いを差し込む余地はない光景だった。そうして、スペースノイドたちはそうした光景はありふれたものだったのである。何せ、空を見上げれば逆さになった街があるのが常識なのだ。今更海があったって―――という話である。
そうして息抜き気分で漫然と空を眺めていると、ふとフェニクスの視界に薄ぐらいものが掠めた。
黒雲、だった。
暗雲が立ち込めるような―――。そんな使い古された文学的形容を思い出したフェニクスは、再び暗澹たる気分になった。
「リゾンテの気象管理局は仕事熱心なことだな」鼻を鳴らした。「ニューエドワーズも見習ったらどうだ?」
あてつけのように愚痴る。そうして自己嫌悪に陥ったフェニクスは、今一度空を高く見上げた。
「――――――何者だ……貴様らは……?」
眼差しを鋭利に細める。さんさんと陽光を降り注ぐ太陽の取りつく島のない静謐さは、相も変わらず人工的な冷たさに溢れていた。
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