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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
29話
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「あー! 発見!」
 不意に格納庫で爆ぜた声は、弛緩した気分だったクレイをびくりとさせるには十分だった。
慌てて顔を上げて周囲を見回す―――と、入り口付近に人影が1つあった。
遠くから見ては、どうやらモンゴロイド系の人間であることがわかっただけだった。黒髪のショートツインテールを靡かせ、肩を怒らせてこちらに歩みを進めてくる女性のその素振りで、さきほどの「発見!」の志向対象が自分であることを知ったクレイは、猶更驚愕した。
 クレイには昔からの女性の知り合いも片手で数えてさえ余裕があるくらいの乏しい交友関係しか持ち合わせていなかったし、またその相手は共和国国防軍のSDUを着ていたのだ。クレイには、やはりジオン出身の知り合いもいなかったのである。
 クレイが困惑している内に、その女は機敏な足取りでクレイのすぐ目の前へとやって来た。首元の階級章を見ようにも、腰巻にされていて確認できず、インナーのぴっちりしたシャツという出で立ちの女性がどんな人物かは一瞥して理解できなかった。
 とりあえず、急いで立ち上がったクレイは敬礼と共に綺麗に敬礼し、自分の所属と階級を素早く告げた。しかし、女性は何故か不満そうな顔でクレイの顔に釘の視線を打ち付けるばかりだった。
 ふん、と鼻を鳴らした女は、ようやく敬礼をした。
「ジオン共和国国防軍第1海兵宙戦団第1大隊第2中隊の趙琳霞中尉よ」
目を見開いた。
 第112中隊―――クレイの初の教導任務だったあの教導で相手にした部隊だった。そう言えば、あの時クレイがやりあったあの《ハイザック》のパイロットは女性だったハズだ。
「もしかして、あの時あの《ハイザック》に乗っていたのは?」
「そうよ、《ガンダム》のパイロットさん」
 何故か、彼女は不機嫌そうに眉を顰めたままだった。
 まさかまだ琳霞のことで何か見落としがあるのだろうか。まさかすぐ誰か気づかなかったから―――ということはないだろう。一時矛を交えただけで知り合いだ、などというどこぞの少年誌的発想をしているのでもなければ、やはりクレイが眼前の上官について知り得ている情報はほとんどないハズなのだが。
「あの……どこかで会いましたか?」
 恐る恐る口にする。と、呆気にとられたように目を丸くした琳霞は、次第に目つきを日本刀のように鋭くし始めた。加えて額には青筋が浮いてプルプル震えはじめていた。
「あんた、覚えてないワケ?」
「すいません、覚えていません……」
 わなわなと全身を震わせた琳霞の身体がふと霞んだ―――と認識した瞬間には、玄翁で打たれた様な衝撃を伴った鈍痛が鳩尾に食い込んだ。潰れた蟾蜍が哭くようなうめき声を上げて膝を折った。
「ちょっと一回殴らせなさいよ」
「殴ってから言わないでくださいよ……」
 憤懣やるかたないといった様子で頭を掻き毟る琳霞。
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