28話
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…」
「わぁーってるわぁーってる。冗談だ冗談」
爽やかな笑みと共に颯爽と去っていくヴィセンテの背を恨めし気に眺める―――紗夜は気の置けない知り合いのハズなのだ。あれ以来、やはり特に変な気にはなっていないのだし。
エレアに無性に会いたかった。エレアの肉体を触りたかった。エレアの薄い唇の温かさを感じたかった。途方も無く底抜けの孤独感を打ち消したかった。しかし、残念ながらエレアは今職務中なのである。
当ても無く、クレイは1人、ぽつねんと佇む。
休日と言うこともあり、クレイは暇だった。シミュレーターも今日は他部隊での使用の予定が入っているため空いておらず、かといって論文の訳も順調とは言えないがとりあえずは一区切りついていた。畢竟、特にすることも無く、時計の針が翌日の24時と0時の瞬間をなんの感慨もなく経過し、そうしてAM8:00を意味するまでは暇だったのだ。かといって漠として時の経過を無為に過ごすのも性に合わなかった。休憩はクレイにとってはどこまでも休憩以上に意味付与はされておらず、本質(ピュシス)として動の人間なのである。結局基地施設周辺を走り回った後に本でも読もうと決め、軍靴の紐を固く結び直すために屈んだ時だった。
「あー! 発見!」
格納庫に爆ぜた声は、あまりにも場違いだった。
※
歩む音が嫌に響いていく。
コロニーの構造は0.9Gを発生させるために、コロニー全体が回転するための三重構造でできており、コロニーの大地の下に層をなしているそれぞれの構造体はひとつの層で数十メートルにもなる。
モニカの先を行くハミルトンは、何の衒いもなく―――この道を歩くのが当然とでも言う風采で、人工灯にのみ照らされた地下通路を歩く。それでも、途中基地司令のハミルトンでさえも虹彩や網膜、指紋など様々な生体認証を要求されるところを鑑みるなら、ハミルトンですらも所詮は軍人という1つの駒でしかないとみなすほどの軍事機密がこの奥にあるのだった。
「君は行かなくてよかったのかね?」
歩きながら、ハミルトンがモニカに視線を寄越す。
「いえ、サイド3への遠征は本来教導隊としての任務ですから私が行く必要はありません。それにこちらの方が重要ですから」
「そういう問題ではなくだ。サイド3と言えばサイド5に並ぶ観光名所だぞ? リゾンテはリゾート施設も多いし、ゆっくり羽を伸ばしてくればいいと思うんだがね。あぁ君はブリュタールの方がいいかな?」
要するに、休んでくればよかったのではという話だった。
もちろん仕事の効率面からしても休憩は必要だし、モニカは別に仕事が人生の全てであるとは思っていなかった。ボーイフレンドだっている―――モニカと同じようにガチガチの理系人間だが。モニカがニューエドワーズに残ったのは、一重に仕事に対する責任感だったからである。
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