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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
28話
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手を当てたエルシーは、しかしふと顔色に影を差した。そうして、その小さめの胸に抱いたであろう疑問を言おうとしたとき、遠く向こうでエルシーを呼ぶ声が格納庫に響いた。エルシーが振り向き、クレイとヴィセンテをもう一度見返した。多少残念そうな顔をしたようだが、仕事は仕事と割り切ったように、大きな声で背後に返事をした。
「ありがとうございました。それじゃあ」
 もう一度ぴょこんと頭を下げる。顔を上げた少女と目が合うと、彼女はまたぎこちない笑みを浮かべた。
「それじゃあ頑張ってくださいな」
 はい、と張りのある声で返事を1つ、踵を返した少女は足早に駆けていく―――。
「でもお前にはもっと丁寧に扱って欲しいんだがな」
「善処します……」
「ま、一応改善されてはいるからな。ほらこれ見てみろ」
 ヴィセンテが小脇に抱えていたタブレット端末の電源を入れる。
「戦闘機動の最高速度時の反応速度とかは上がってるが、機体の蓄積負荷は昔のと比べるとちょっとだけマシになってるからな。総体として向上してるってこったな」
 実感はあまりないが、こうしてデータとして見ると多少なりとも技量は上がっている、ということだろう。先ほど感じたプライドも、空虚な感情ではなかったわけだ。
 それでもぬか喜びはできないだろう。データとして、といってもサイド8宙域の条件とサイド3の演習宙域の条件はイコールではない故に数値の斑は出てしまうだろうし、何よりあくまで過去の自分と比較した上での微細な向上に過ぎない。向上の邁進はむしろここからだ。
「頑張らなくちゃあ」
「そうだ。そうして俺の仕事をもっと減らしてくれ」
「そのうちリストラですよ、リストラ」
「お、言うじゃねーか」
 強く背を叩いたヴィセンテも、腕時計を見ると、別れの言葉を残して格納庫の外へ駆けていく―――前に。
 立ち止まったヴィセンテがくるりと振り向いた。
「んでさっきのはどうだったのよ、先生?」
「は? 何がです?」
「エルだよエル。お前的には良い具合にロリロリしいと、俺は思ったんだが?」
 にやとヴィセンテが顔を歪める。
 どうしてこう人とは他人のそういうのを気にするのか―――と、憤慨にも似た理性的思惟をしたのは、急に思い出しては意識したからだった。
 悪くは、無かった―――と思う。
「何ニヤけてんだ? 良かったのか?」
「ニヤけていません! 気のせいです」
 ふーん、と意味深に相槌を打つと、おもむろに電源のついていないタブレット端末の画面をこちらに見せつけた。
 ―――なるほど、確かにパッとしない野郎がなんともいやらしそうな笑みを浮かべているではないか。
「エレアに飽き足らずエルにそういや紗夜もいたなぁ。最近流行りのハーレムって奴? あーきめぇきめぇ」
「失敬な! エレアはともかく他2人は別に…
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