27話
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ジャケットと中に着ているシャツの内側に手を入れ、肩をもんでいるらしい。肩でも凝っているのだろうか。デスクワークに加えて胸もデカいから凝るのだろう―――肩でも揉もう、と頭皮でも真皮あたりの部分が思案した。
「エレアは私を真摯に愛してくれています。とても嬉しいことですよ。にも関わらず私は彼女の出自を知っても義憤に震えて声を荒げることもしないんですよ。それよりも客観的、理性的であることに情熱を傾けているんです。私は冷たい人間なんです。それに、心の中で私は彼女を性的欲求の対象あるいはその期待としか見ていない節があります。私にとってエレアはダッチワイフ程度の存在かもしれないんですよ。僕は、本当にエレアを愛しているんでしょうか?」
フェニクスのグラスが音を立てた。中の氷が溶けて身震いしたのだ。そうして、フェニクスは小さくなった氷塊を口一杯に入れると、激しく音を響かせて噛み砕いた。
「クレイ・ハイデガーはその程度の人間なのです」
※
部屋の電灯をつける。白いLEDの冷たい光がフェニクスの網膜を痛いくらいに刺した。
覚束ない足と思考のまま居住ブロックに宛がわれた自室を網膜に投影し、視覚野の部分を像的に理解する。上級士官用に広くスペースがあるが、ベッドとデスク以外特に何もない部屋故にむしろ虚しい純物理的無機的空間でしかなかった。
いや、それは違う。ぴったり並んだツインベッドのうちの1つはこんもり盛り上がっており、枕元には白濁した目をする真っ黒なぬいぐるみが怪しげな笑みをしていた。慣れないと不気味としか感じないが、見慣れれば案外愛らしい―――気がする。きっとあのぬいぐるみ、ジャックと名付けられたあのオーストラリア出身者はおかえりと言っているに違いない。だから、フェニクスもただいまの挨拶をした。
SDUのジャケットとカーゴパンツをさっさと脱ぎ捨てると、程よい涼しさだ。タンクトップに下着のままで寝たら流石に明日風邪をひくだろうかという懸念を一瞬感じたが、些末なことと無視してベッドに腰掛けた。途中買ったペットボトルの水を数ml口に入れて舌の上で転がす。
本当の、愛。先ほどまで共に居た部下は、酒で顔を真っ赤にしてそう言った。
本当の、愛。先ほどまで共に居た男は、回らない呂律でそう言った。
本当の、愛。先ほどまで共に居た希哲者は、自分の脳みそに焼き鏝を突き刺しながら、そう言った。
一気に脱力感が押し寄せてきたが、思案は手元にしっかりおいておいた。
本当の愛とはそもそも何だろう? いや、『本当』とはなんだ? 世間一般でよく言われる、聞こえのいい陳腐なプラトニック・ラブか? それとも巷で繰り広げられる純愛と痴情が常に交わされる経験を基盤にするものを愛を読んでいるのだろうか?
プラスチックが軋む。気が付け
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