27話
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ていく。
フェニクスの声はいつもと変わっていない―――気がした。本当だろうか? 酔いが回り始めたクレイには、そうした機微な変化は把握できなかった。 肺に溜まったアルコールを吐く。オーナーから冷えた水を貰い、それを飲み込んだ。
目頭を抑える。漠然とした思考がごちゃ混ぜになり、上手く意思を統合できなかった。一度声を出そうとして一度吃った。
「私は人間的な道徳とかを絶対視して糾弾するのは好きではないんです。もちろん道徳や倫理は最大限も尊重されなければならないとは思いますが、そうであるが故に慎重にならなければならない筈です。現代では往々にして道徳や倫理とはマニュアルと同類に見なされていますが―――本来違うものです。マニュアルに唯々諾々と従うのではなく、人々の語りの中で常に再構築されるべきものであると僕は思うんです」
水を飲んだ。空になったグラスを当ても無く手の中で弄ぶ。
「何が言いたいかと言えば、何も知らない私が隊長に何を言えるというのか、ということです。そもそもエレアがどのようにして誕生したのか、そしてそれに隊長がどう関わっているのか。直観的には、隊長は正しくないことをしているような気はしますが、だからといって感情論を捲し立てる気はありません。そんなことは無意味です」
それに、とグラスにコニャックを注ぐ。カラメル色の液体は、掴みどころのない美しさだった。
「隊長はエレアのことを愛していると私は判断しています。でなければあの子、とは言わないでしょう。それに、エレアが隊長にぬいぐるみをプレゼントしようと思ったのも、きっとエレアも隊長のことを愛しているからなのでしょう。ユートとも楽しげに会話しています。エレアが単なる物としてのみ扱われていたなら、彼女はあのような人物にはならなかったのではないか、と思います。確かに彼女の産まれ方は自然なヒトの産まれ方とは異なるのは事実ですし、産まれ方もまた重大な意味があります。しかし、生の本性全体を理解することの重要性も見失われるべきではないでしょう。そもそも自然なものが望ましいものでしょうか。自然なものが本性的なものとどうして言えるでしょうか……」
わかりにくくてすみません、と苦笑いをしてみたが、表情筋は思うようには動かなかった。フェニクスは、やはり微かにも顔色を変えない。ただ淡々と液体とツマミを口に運んでは、口をもごもごと動かし、ウェットティッシュで口元と手を拭いていた。
背後から聞こえる柔らかな言葉と微かな物音。口元に運んだ最後の猫の塊をワインで全て流し込んだ。味はもうよくわからなかった。
「あの……」
口が強張る。ちらとこちらを見たフェニクスは特に何も言わず、再び視線を戻した。
「エレアを物として、手段としてだけ見ているのはむしろ僕なのかもしれません」
フェニクスが身動ぎする。
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