25話
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
。
「一年戦争で唯一擁護できるところは」と、一本でそんじょそこらの公務員の月給を上回る価値のあるワインを無造作に掴んだハゲ頭が立ち上がった。
「フランスのワイン畑をあまり汚さなかったことよ。人類史においてフランス人唯一の功績はワインくらいなものだもの」
フェニクスが鼻を鳴らす。
「よく言うよ。高ければなんでもいいと思ってるくせに」
「インテリ感があるでしょ? 気分よ、気分」
まぁな、と相槌を打つフェニクス。とりあえず彼女の前に未開封のワイン3本をずらと並べ、男は冷蔵庫からささっと材料を取り出し素早く調理を済ませる。赤と言えば高タンパク料理だが、白と言えば火を通した魚料理だ。帆立をサッとバターで炒め、作り置きの牛肉の赤ワイン煮込みを電子レンジで温めると、フェニクスの隣に腰掛けた。
「本格的だな。よくあんな短い時間で」
「こっちは温めただけ。店の残り物よ」
「それは……いいのか? 衛生管理局が黙ってないだろう」
「いいのよ別に。店に出すわけじゃないし」
それに、とフォークで良い具合に薄茶色の焦げ目がついた帆立を刺し、極めてにこやかな表情をした。
「ばれなきゃいいのよ」
「―――私は一応公職の人間だが?」
「あらそれは恐いわね。でもいいの? 私を豚箱にぶち込んだらあなたの『計画』はオシャカよ?」
「冗談だよ」
「ま、所詮予備だけどね」
禿げ上がった頭を撫でながら、この世に生を受けて数年ほどで大層な価値を評価されているワインボトルをフェニクスのグラスに並々と注いだ。
「こういうのはワイングラスに注ぐものじゃないのか?」
そういいながら、フェニクスは無頓着に濃縮葡萄エキスを胃に注いだ。別に酒についての感想は特にないらしい。コメントも無く、フェニクスが緋色の塊をフォークで切り崩して食べた。
その後何分かを思い出話に費やした―――といっても、専ら喋ったのはハゲの男だが―――後、そういえば、と筋肉男がブルゴーニュ生まれの貴婦人を、ボトルから安物のグラスへと移住させながら、言った。
「あの子―――元気?」
あぁ、と頷いて、注がれたばかりの赤いアルコールを湯水のように空にした。
「もうずいぶん逢って無いわねぇ。ちょっとくらい顔を見たいんだけど―――って! ちょっともったいない!」
「―――あ、すまん」
並々注がれたワインはそのグラスのキャパシティを超え、モカブラウンのカウンターに葡萄の湖を作っていた。慌てて立ち上がった禿げ頭がカウンターの裏から素早く布巾を取り出し、素早く零れた液体をふき取る。
「すまん……少し酔った」
「まぁ別にいいけど。金出せば買えるものだし」
一通り拭き終わり、シンクに放り投げる。派手に水が飛び散ったが、特に気にしない―――自分も酔っているらしい。いつもならこういう雑な仕事はしない
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ