23話
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灼熱の濁流の中に沈んでいった。
攸人が声を出して苦い顔をする。クレイも身振りこそしないが、顔を顰めた。VIBSによってCG補正された映像とはわかっていても、なまじパイロットが乗った生のMSという感覚があるだけにいい気分はしない。あの大出力のメガ粒子砲に晒されたら、きっと跡形もなく蒸発して消えるのだろう。死ぬ、というより消える。人の死というどこか荘厳なイメージとはかけ離れた事態に、知らず身震いする。ビーム兵器が主流になった現在、MSパイロットの道に進むと決めた時から考えなかったわけではないが―――。
膝の上でエレアが身じろぎする。彼女のくびれた腰に回ったクレイの手に、エレアの小さな手が重なり、手のひらを握る力が微かに強まる。震えている、気も、した。
「さてブリーフィングは終わりだが。何かあるか? 小隊長殿?」
モニターの隣で腕組みしていたクセノフォンが攸人に目を配り、ついでクレイとエレアに目をやる。
戸惑ったように唸ると、のっそり立ち上がってモニターの隣に立つ。部屋全体を振り仰ぐように―――といっても、同じ席に座るクレイとエレアしかいないのだが―――すると、仰々しく咳払いをしてみせた。堅苦しさの似合わさない攸人のその素振りに、思わずエレアがくすくすと微笑したらしい。
「えーと、今日はもう解散でいいんじゃないですかね?」
沈黙。その静寂が持続するにつれ、最初堅物そうにしていた攸人の顔がみるみる戸惑いに変わっていった。
攸人が小隊長になれ、と言われたとき、クレイのほうが適任だと抗議、というよりは愚痴を隊長に言っていたのを思い出す。だが敢えて、フェニクスが攸人に小隊長を任せた事実の根底を掬いだそうとすれば―――。
手を上げた。胸を撫で下ろした攸人が軽く顎をしゃくる。
「その心は」
「いや、もう遅いし……。俺らの教導は3日後だろ? じっくり分析するなら明日明後日に詰めて今日はもう休んだほうがいいかなーと」
ぽりぽりときまり悪そうに頬をかく。
悪くない、と思う。クセノフォンも腕組みしたまま、特に顔色を変えもせずにこくこくと頷いていた。根を詰めれば良い、というわけではない。クレイにはそういう考えが自然に出てくる素地がない―――だからこそ、クレイの居場所は前ではなく、ここなのだ。
そこに、思うところはある―――ウジウジと思い悩んでいるその本性に、脳みそが焼き切れそうになる。そして、だからこそ、クレイは平静に身を引き締めて攸人の顔を見やった。
クセノフォンも、エレアの2人も特に頓着も屈託もないらしい。今度こそホッとした攸人の顔は活き活きしているようだった。
「それじゃあ、解散ということで」
クレイとエレアが立ち上がる。小隊長を務める攸人の敬礼に合わせ、各々敬礼を交わした。
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