19話
[5/5]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
びた格好の彼女が、嫌に子ども染みたことをしている。間の抜けた光景に道行く一般人が奇異の視線を投じるのは、無理からぬことである。
これでネオ・ジオン軍のベテランパイロットというのだから世の中よくわからないなぁ。そんなことを思うエイリィなのであるが、エイリィとて他人のことは言えない―――無論、エイリィはその事実に気づいていない。
抜き足差し足。極東の忍者かイスラームのアサシンもかくやといった素振りでにじり寄り、少女の首筋へ今や躍りかからんとした、その刹那。
軍人としてのスキルを無駄に使用してまでのテルスの背後からの接近を即座に察知した彼女は、半身だけ翻し、テルスの右手首を左手で握りこむ。と、そこからはまさに鮮やかな手際だった。ぐいとテルスの身体を引き寄せながら、右ひじを鳩尾に撃ち込む。ぐぇ、と年若い美人にはあんまりな悲鳴を上げたテルスにはお構いなく、自分より小柄な女性の身体の下に潜り込むようにして身体をすぼめるや、あとは背負い投げで地面に叩き付ける―――ものの2秒で制圧された暴漢がむきゅー、と断末魔を上げた。
「あちゃー……」
顔を手で覆いたくなった。悪戯をしようとしたら本気で対応される、というのはよくあることだが、眼前で繰り広げられたのはまさにそれだ。もちろん、悪戯を仕掛けようとしたテルスに全面的に非があるから、あの少女に対して文句を言える筈もない。
「あいたたた」
流石に咄嗟に受け身をとっただけあって、テルスの意識は明瞭そうだが、鳩尾へのエルボー直撃に背負い投げを食らって伸びていた。
「あ、貴女は―――」
「こんにちは」
自分が制圧した相手が知り合いと知り、瞠目する彼女―――しっかり手入れのされた艶やかな栗色の髪に、見開かれた瞳の色は蒼。緩やかな時間の到来に身を沈めた深海の蒼を想起させる美しいサファイアの瞳が、つとこちらを向いた。
綺麗だ女の子だなぁ―――マリーダ・クルスという名の少女に、エイリィが初めて抱いた感情はそんな素朴なものだった。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ