19話
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
のだが……。
「あ、あははは……」
やる気は十分と張り切るテルスの顔を見て、エイリィは乾いた笑みを零すほかなかった。
人を悪く言うのはあまり好きではない。だが、そんなエイリィをして、テルスの料理を評するなら「殺人的な味」だ。無論これでも幾分好意的に解釈して、である。毎日テルスの料理を口にしている彼女の旦那―――ジェトロの胃は何でできているんだろうと、不安のあまりに夜しか眠れなくなるときがある。なんだ、剣ででもできているのか。
彼女の歩みが自然と早まる―――この一歩一歩がアプスーへの歩みだと思うと沈鬱だが、エイリィにとってはウルクへの闊歩でもある。
太陽光も幽かな?劫のアステロイド・ベルトより地球圏に運ばれてきた岩塊と小惑星から成るパラオは、26歳のエイリィにはあまりにも悦楽の手段があまりにも乏しい。テルスが買い込んだ食品も、生鮮食品がごく僅かにしかないありさまである。
寂れた歓楽街の一画に伸びる通りにさしかかったところで、エイリィの歩みも自然と弾む。この通りの先にはエイリィの数少ない楽しみのうちの一つがあるからだ。ほら、この通りをずうっと言ったところに―――。
「あら?」
はたとテルスが足を止めるのにつられ、エイリィも足を止めた。
テルスの瞳が向かう先をエイリィもなぞる―――。
特に目立つなにがしかがあったわけでもない。いつもこの通りに店を構えるアイスクリームの屋台の付近には机と椅子のセットがいくつか並べられているだけで、代わり映えのする光景はない。ぽつねんと、屋台を遠目に眺める少女が一人。
肩甲骨にかかるくらいのセミロングの栗色の髪の毛を無造作に束ねた彼女は、どこか少女然とした様子でありながら、神錆びた雰囲気を感じさせた。
テルスの瞳は、あの女性を捉えているようだ。
「えぇと、名前はなんだったかなぁ」
推理小説の主人公よろしく、空いたほうの手で顎を撫でる。無論、テルスにそんな素振りは一向に似合わない。思わず吹き出しそうになるのを我慢していると、すぐに得心がいったようにぽん、と手を叩く素振りをしてみせた。
「えーと……?」
「いやなんであたしを見るんですか……」
「まぁ、いっか」
得心したように頷く―――何に得心したかはわからないが―――と、テルスは悪戯っぽい笑みをウィンクとともに浮かべると、手荷物をエイリィに手渡す。
天真爛漫、無邪気を30代になっても地で行くテルスのその笑みですぐに察した。どちらかと言えば、テルスに近い気質のエイリィである。あの健やかな栗色の髪の少女と知り合いであったなら、似たようなことはしていたと思う。
しーっ、と大仰に口の前で小指を立てたテルスがそろそろと足を忍ばせ、少女の背後に回る。今の仕草は明らかに不要なのだが―――ハイネックのニットの服にロングスカートという大人
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ