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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
19話
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伝るというのもおかしな話である。本来なら基地内放送ででも執務室に呼び出せばいいだけの話なのに、こうして件のフェニクスはクレイの前にいる。
 何か嫌な予感がする。凄い嫌な予感がする。もの凄ーい嫌な予感が……。
 訳もなく感じた妙な不安に、クレイ・ハイデガーは顔をひきつらせた。
 ※
「あ〜キッツ……」
 全身に重くのしかかる気怠さ―――オーバーGの殴打に打ちのめされたエイリィにとっては、こうして歓楽街を歩くのも億劫だった。
「そんなに辛いなら休んでた方が良かったんじゃない?」
 淀んだ顔つきを伺ったテルスが眉宇を顰める。まぁ約束ですし、と無理に笑みを作ったが、不安そうな彼女の顔つきは変わらなかった。
「エイリィがそんなになるなんてね〜。大佐の《シナンジュ》は?」
 ぼんやりと閉鎖的な空を眺めてぽつり。一言言ってから、テルスは苦笑いを浮かべた。
「機密だったね。ごめんなさい」
 苦笑い、というより照れ笑いのように見えた。26歳のエイリィよりも年上のテルスは童顔なことや編み込みをしているとはいえ少年的なショートヘアであることもあいまって、かなり幼げに見える。そしてそれに輪をかけて天然なところもある―――。
「機密に触れない限りで言えば、ですけど。全うな目で見ればあれは欠陥兵器の出来損ないですよ。あのパツキンのおぢさんだけが乗る機体だから許されてるものです」
「そんなに?」
「あれを作った人はMSが何たるかをまるで知らないか、逆にMSの何たるかを知り尽くしている人ですよ」
 十中八九、後者なのだろうなとは思うが。あそこまで突き詰めて無駄をそぎ落としたMSはMS史を概観しても存在しないだろう。多少なりともテストパイロットとして腕に覚えのあるエイリィとして、興味深い機体ではある―――そうして、エイリィの立場上単に興味深い、で済ませられないのがつらいところだ。何せ過剰なまでの即応性に加えて、何かよくわからない機体操縦があるというのだから機体の調整を行う身としては災厄である。その上、先任のテストパイロットは試験中にフレンドリー・ファイアをかましてしまうという事態を引き起こした怪。《シナンジュ》のコクピットを思い出すだけで、顔を顰めてしまいそうになるのも仕方のない話だ。HAHAHA、と鷹揚に笑うあの仮面のおぢさんのことを思い出すだけで、胸やけを覚えるようになってしまっていた。
「よーし、今日はエイリィのためにも頑張っちゃうんだから」
 腰に手を当て、えっへんと胸を張って見せるテルス。腰に当てた彼女の手にはぎゅうぎゅうに膨れたビニール袋が2つ。調理されるのを今か今かと控える食料品がみっちりと詰め込まれていた。
 今日はパラオのとある家庭でパーティーをするらしい―――言葉だけを捉えるなら、どこか子どもっぽい質のエイリィは嬉々とした笑みを浮かべる
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