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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
16話
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降りるにあたって出会った稀有な客に対しては荷物を全力で持ち上げて通路可能なスペースを確保していた。
「―――ちょっと買いすぎたかな」
 2階に降りたアヤネは、《FAZZ》さながらの重装備になったクレイを見て少し申し訳なさそうにしていた。
 と、言いながらも洋服売り場である2階で足を止めたあたりまだ買い込む腹積もりらしい。別な店であれほど買ったのになぁ、と自分の腕にぶら下がる店のロゴ入りのビニール袋を恐々と見ながらも―――これもまたファッションという趣味のあり方なのか、とも思い直した。
 殊にファッションなどに興味もない、精々がダサくない程度の服着てればいいやぐらいの思考でしかないクレイにはその真髄を理解することはできないが、要するにハイ・ローミックス構想的なものだと思えばわかりやすい。先ほどまでアヤネやジゼルが買っていた一着数万から数十万まで手が届こうかという服=お洒落、という短絡思考では可愛らしい服装を成立させることは不可能。あえて庶民感覚の値段の服もまた必要、ということなのだろう。現代戦争は1人の英雄だけでは勝てないのと同じ理屈―――と、一応クレイは理解した。
 案外ファッションも奥深い趣味なのかもしれない。今まで気にも留めなかっただけに、思いがけない世界の存在に一人唸っていたクレイは、ふとアヤネとジゼルが自分の前にいないことに気づいた。さっさと服を見に行ってしまったらしい。溜息ひとつ、エスカレーター付近に敷設された木製のベンチに腰を下ろした。
 女に聡い優男(ロメオ)の言葉を思い出す。その応答に、確かにな、という言葉を選ぶのも今日何度目か―――己が贅沢な悩みに対し、今もって『贅沢』という点は譲っていない己がフェミニズムに苦笑いする。貧乏人はいつまでたっても吝嗇の気が抜けないということか。荷物の山を地面におろし、すっくと立ち上がったクレイは、尻のポケットに差していた黒皮の長財布を取り出し、エスカレーターを挟んで反対側に設置された自動販売機に寄った。
 エスカレーターの乗り口付近は曇りガラスで囲われており、買い物に際して労した客が軽く休憩をとれるようになっている。現に自販機前に横たわるレトロなベンチには、高級官僚の家族らしい品のありそうな夫人が静かに座っていた。
 自動販売機に硬貨を入れる前に、はて何を飲もうかとデジタル表示の自販機を流し見―――一画に目が留まる。
 例の緑茶だ―――が、その脇に別な新商品が並んでいた。今度の意欲作はなんと…わざわざトラップ塗れの敵陣に正面から吶喊する阿呆はおるまい。即座に見なかったことにした。
 クレイの目に映るのは、魔物が写った緑茶。
 迷いもなく、例の緑茶の塊を内包した紙パックのボタンを押す。金を得た喜びに悶えるように身を揺すった自販機が鈍い音を鳴らし、取り出し口に契約品を吐き出した。
 わかり
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