16話
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「―――それだけ、ですか?」
そうよ、と一言だけ頷く。
「意外?」
驚きと心外を孕んだモニカの顔が可笑しかったのか、気品という名の威圧を発する顔を破顔させる。
「己で為さなければならない問題は己が手で決着をつける。それが上に立つ人間の存在様式というもの―――必要な労を惜しむのは二流のやり口よ」
覚えておきなさい。そう、マーサのエメラルドの瞳が語っていた。
挑戦、あるいは睥睨。どちらともとれない視線に身を強張らせていると、マーサの秘書らしい女性が背後からマーサに声をかけた。
年齢は30ほどであろうか。タイトなスーツに鋭いサングラスを装備した姿は、マーサの隣に仕える者として個性を剥奪されて尚有能さを感じさせる様子だった―――モニカが悟った有能さ、とはすなわちデスクワークにおいての有能さだが、この秘書官はその実5秒もあればベテランの歩兵を素手で殺害しうる技量を持っているということは、軍人でもなければ武の心得があるわけでもないモニカには知る術はない。
サングラスの奥の見えない瞳がアイコンタクトを求める。長躯のマーサに対して尚背の高い秘書官に対し、マーサが少しだけ身体を傾けた。
内密な話―――火急の用なのか、あるいは聞かれたくはないがさほど重要ではないからあえてこういう場で話しているのか。どちらにせよビスト財団の裏話だと思うと関わりたい話ではない。
「―――そう、原石が」
そんなマーサの声が聞こえた気がしたが、モニカは聞こえなかったことにした。
モニカが前方のモニターに視線を投げる。
(レギンレイヴ、第5次目標撃破)
「コマンドポスト、目標の全撃破を確認。状況終了」
モニターの中、サーベルを目的もなく発振させたままの《シルヴァ・バレト》に隊長機の《ジェガン》が接触回線で何か通信しているらしい様は―――。
※
ずしりと重い感触。両手をふさぐほどの荷物だが、流石に軍人として鍛え上げられたクレイは重さという点では気にはしない。士官学校ではそれこそ計60kgを優に上回る装備で3日間の密林行軍もこなした身として、この程度の苦は問題ではない。問題ではないのだが、何分量の多さがつらい。
5階立てほどのショッピングモールにおいて上下階へ移動する手段はエレベーターかエスカレーターの二択。荷物の量から言って、エレベーターの使用は他客の迷惑になりかねないからパス。必然エスカレーターになるのだが、エスカレーターは往々にして細い。幅約1mを使用するクレイの現状では、どちらにせよキツいを通り越して限界許容量だ。横になれば幅の問題はクリアできるが、クレイだけでエスカレーターを占領していることに代わりはない。平日のショッピングモールに慌ててエスカレーターを降りる人もそうはいないが、2階まで
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