15話
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ら紗夜って結構タイプなんじゃないの?」
む、と口を結ぶ。確かに紗夜は可愛い。だが固く紗夜に対する可愛い、という感情と劣情は別―――一時の気の迷いは気の迷いでしかないハズなのだ。事実、先ほど彼女とともにいて淫猥に身を許しはしなかった。今だってやはり、こうからかわれて彼女を意識しても自分の身体に変化はない。
無言で立ち上がり、残ったココアを手に取る。あ、とアヤネが呟く間もなく、近くにあった流し台に残り半分ほどになったココアを捨てた。白磁の流し台に薄く伸びたココアの茶を水で洗い流し、缶捨てに捨てる。
こういうことですよ。そう言うようにアヤネを見ると、いつも通りの彼女の顔が戻っていた。彼女なりの気遣いと理解し、むっとした憤懣も誤りだったと思い直した。
「そういえばさぁ、休みってなんかする?」
クレイが椅子に座ると、アヤネが言った。
「急でしたからなんとも……でも別に何かする予定もないですかねぇ」
どうして彼女がそんなことを聞くのか、と思いながらも、明後日の虚空を眺めるように思案する。
クレイ・ハイデガーは自堕落な男だ。自堕落なる自己を分析しているが故に、己を律しなければならない。その決然たる意志の履行の方法の一つが哲学でありMSのパイロットであるといっても過言ではない。いつもの休暇はそのどちらかに全て振っている故に休暇でありながら暇はないのだが―――。
「今度サイド3に教導がてらリゾンテに行くじゃん? 水着とか色々買っておきたいんだよね〜」
一緒に行かない? と彼女の笑みが告げた。
「俺ですか?」
少しドギマギする。
「だってほかの男休みじゃないし〜?」
あぁなるほど―――感じたドギマギも急速に沈降する。要するに体のいい荷物持ちだ。甘い話は己にはない、と再度、再度思い直す―――。
フラッシュバックする光景。
昏い夜。
微かな光。
近くで煌めく銀色の光。
綻んだ笑み。
破裂しそうな心臓―――。
―――甘い話はないのだ。
「いいですよ。やることもないですし」
「ほんと? やった」
少女然にはしゃぐ素振りを見せた彼女を見ながら、クレイは知らず銀色の光を幻視していた。
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