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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
15話
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など滅多に生じなかったが、なかったわけではない。その数少ない例の被害者がクレイだった。
 だが、何もクレイだけではない。一年戦争を超え、デラーズ紛争、グリプス戦役、第一次第二次ネオ・ジオンと―――地球圏が経験した戦争は多すぎる。その度に人は死んでいくのだ。紗夜も、第一次ネオ・ジオン抗争の折に父親と兄2人を喪ったと聞く。親族が死んでいるのはさほど特異なことではなくなってしまったのが、宇宙世紀という異常な時代なのだ。
「なんかごめん。変なこと聞いちゃって」
 もう一度ごめん、と頭を垂れた。
「いや、俺はなんか昔の記憶がなかったりして思い出すこともないから別にどうでもいいっちゃどうでもいいんで」
 愛想笑いを浮かべる。
 どうでもいい―――本心だった。物心つく前に喪ったクレイよりも、寧ろ紗夜のほうがよっぽど辛い目に合っているだろう。クレイ自身、自分が不幸な身だとは思わない。強がりや、己が境遇を乗り越えるためなどという前向きな思考故でなく、単純に比較した上で自分は恵まれているのだと思っている。
 うん、わかった。すぐに笑みを作ったアヤネに内心ほっとする。クレイ自身がどうでもいいと思っていることで、誰かに気に病んでもらうのもありがたい話ではあるが、申し訳なく思ってしまうのだ。それに、まだ私的な話も碌にしていない、ある種まだ他人のアヤネに心配してもらうのも心苦しい。こういう女の子には悲しい顔も似合わないでもないが、やはり笑っていたほうがいい―――そう思う。口には出さないが。
 それでも、少しだけ空気が沈んだ。親兄弟の生き死にの話は、たとえ普遍化したとしても空気を重くするものであるらしい。
「よお、クレイはいるか?」
 ―――そんな重い空気を破ったのは、ヴィセンテの陽気な声だった。ラウンジの扉を開たヴィルケイは、そう言いながらクレイの姿を見とめると、人懐っこい笑みを浮かべる。
「いや〜いたいた。探したんだぜ?」
「なんです?」
「いやちっとばっかし用事。お前の機体さぁ、ちょっとフルでオーバーホールすることになってさ。一週間ぐらい実機乗れなくなるんだよ」
 虚を突かれるとはこのことだった。一瞬言葉を失ったクレイは、はい? と間の抜けた返事をした。
「いやだから一回、解体(バラ)すんだって―――あぁいや違うな、理由か。大丈夫、お前のせいじゃない。ほら、今度サイド3で教導あるだろ? それに合わせて念入りに調べようってことになってな。元々整備に不安のある機体だからよ、徹底的にやりたいんだよ」
 人懐っこい笑みに変わりはない。出会ってからまだ長くないが、他人への気配りができる男だと理解している。
 オーバーホール、と言われて頭をよぎったのは自分の操縦性の荒さだった。
 普段はあまり喋らない質で、うるさいか静かかと言われれば十人が十人静かな人間とい
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