12話
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声で敬礼したプルートは敬礼を解くと、踵を返し、格納庫の出口へと歩を進める。
短くまとめた彼女の髪がしゃんしゃんと上下に揺れていた。
「ずいぶんおモテになることで」
整備士の男がにこりと笑う。部下なんだがな、と言いながら、マクスウェルもわざとらしく顔を険しくしてみせた後に、ぎこちない自嘲の笑みを浮かべた。
「未熟なものだ。あぁして部下の一人も不安にさせてしまう」
「いざ命のやり取りをする前に不安を取り除けることができるなら、それで十分ではありませんかな?」
「そうかな」
そうですとも、と笑みを見せる男の顔には年長者としての落ち着きが満ちていた。それこそ一年戦争から、何人ものパイロットたちと語り合ってきたのであろう男であるからこその声色の安心感に、多少ばかりの安堵と、己の未熟を感じたマクスウェルは、小さくなっていくプルートの後ろ姿を眺めやった。
「ところで、こいつの色はどうしますかね?」
老いた整備兵が顧望する。こいつ呼ばわりされた豚鼻の駿馬を、ともに振り返る。
鮮やかな青と、目がちかちかするほどの赤のラインは訓練兵用にと目立つカラーリングに施されているのだ。
新米の色を預かるほどでもありますまい、という意なのだろう。
「どうします? 大尉ほどの腕があるなら派手な色でも塗って」
「派手な色、か」
ええ、そうですとも。そう頷く男の笑みは、年相応に落ち着いていた。
派手な色、と聞いてマクスウェルが思ったのは真紅と白。あるいは黒だった。どれもが燦然と輝く綺羅星のごときエースと共に語られる、誉れの代名詞だ。自分にその下に続くだけの技量があるとはどうにも想像し難いこともあって、整備兵の言葉に素直に頷けなかった。
「有難い話だがやめておこう。何分思い上がりが強い質なものでな、専用色なんかがあると却って慢心してしまいそうだ」
「随分と謙虚なようで」
「部下を預かる身なのでな」
なるほど、と整備兵がプルートを思い出すように、背後に一瞥をくれる。
「その代わり、と言ってはなんなのだが、A型の《ゲルググ》の配色にしてくれるか?」
「A型? ええ、もちろん良いですが。灰色と緑色のあれ、ですよね」
「あぁ。初めて乗った機体が《ゲルググ》だったものでな」
初心を忘れるなかれ。どの学問、あるいはスポーツ、武道であっても語られる言葉だ。「次の任務」へ向けて、というマクスウェルのささやかな意気込みを感じたのか、整備兵は力強く頷くと、心強い笑みを浮かべた。
「といっても流石にオリジナルの配色は難しいでしょうかね。似たような雰囲気にぐらいにしか再現できませんが……」
「構わないよ。わざわざ特別に用意してもらうほどのものでもない」
「次の任務には間に合わせます」
返事をしたマクスウェルは、束の間よぎった「次の任務」という言葉
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