11話
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―――そんな言葉が不意に浮かんで、クレイはぞっとした。とても言えないだろうな、とも思った。そういう科白を吐けるほどの美丈夫でもなければ、クレイは若かった。苦笑いにもならないひきつった笑みが浮かぶ。
「?」
いや、別に―――言いかけ、彼女のほうを見やったクレイは、素っ頓狂な悲鳴とともに身体をびくつかせた。
手を上げれば、すぐ触れられそうなほどに近接に、エレアの肉体があった。
不思議そうな顔をする彼女。宋白磁のようになめらかな白い肌でありながら、きっと触れればずうっと触っていたいほどに柔らかいのだろうか。
息を飲みこみながら、たじろぎ、後ずさる。
彼女の甘ったるい匂いが脳みそに沁みているのか? 蒙昧な空想を働かせるほどに、クレイは頭が気怠くなっていた。
釈然としない面持ちだったが、特に気にも留めない様子になると、その場に座り込んだ。膝を抱える、所謂体育座りと言うやつだ。
暗がりの空に鳴くのは虫と風か―――。瀟条の静寂の中、クレイの思考は混乱の極みにあった。
人間の持ち得るありとあらゆる白と黒の感情が興る。日頃から物思いに耽りやすい性癖の持ち主だったが、今日はなおのことだ。
考え込んでいたせいもあったし、また隣にずけずけと座っていいものかという余計な配慮もあってクレイが立ち尽くしていると、エレアの紅い瞳がクレイを見上げた。
首だけ仰ぐようにして、エレアが見上げる。
どうしたの、と瞳が尋ねる。座らないのか、と。ああ、と気まり悪く返事をすると、所在なさげにして、クレイも腰を下ろした。少しだけ、左にずれて座ったのは、彼の良心あるいは情けなさの故であった。
彼女の隣にならんだクレイは、ちらと空を見上げる彼女を横目で一瞥する。
彼女が?
彼女が。
彼女が、あの《ゼータプラス》のパイロットなのか。彼女の鈴のような綺麗な声はそう告げた。記憶をたどれば、数時間前にノーマルスーツを着たエレアの姿は驚くほど明瞭に立ち現われた。
それでも、妙な現実感のなさがある。年齢は17、と言った。しかし、見れば見るほど彼女の年齢はもっと下のようにも見えた。それこそ15歳ほどといっても納得できる。そんな少女があの強さを。クレイが掠らせることすら拒絶したあの強さを、この少女が―――?
―――恥ずかしかったのだ。クレイ・ハイデガーはプライドの塊なのだ。
ニュータイプ。ないしその類似品。模造品。情欲をかき乱す匂いが染みついた脳髄の奥で這い出して来る言葉。同じような空の下、初めてこの少女と会ったときに攸人が口にした言葉。
さっき感じた威容はそういった類のものだったのではないか。
視線は夜空。不意に、あのさ、と彼女が口にした。
「ニュータイプって、嫌い?」
え、とだけ声が出た。
思わず彼女を見返して―――彼女はまだ、夜
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