10話
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だったか? ルナ・ツー付近で出た、と」
「随分と昔の話じゃあ……」
「黒を白と言い張るのは政治家と金持ちどものお家芸ということだよ」
背を伸ばし、腕を組んだクセノフォンが唸る。
一年戦争からの古参―――そして本当の意味でのエリート組織だった、最初期のティターンズにも抜擢された腕を持つクセノフォンは根っからのパイロット気質の男だった。連邦政府とサナリィ、ネオ・ジオン、アナハイム―――そしてその裏に潜む「財団」の微妙な駆け引きに頭を悩ませる必要などない。
険しい顔をするクセノフォンを横目で見つつ、鼻を鳴らしたフェニクスは、なんともなしに自分の胸に目を落とした。
誰かに揉んでもらおうか―――肩を。でもないと肩が凝って、仕方がない。
「08左腕部被弾。バックパック・ユニットに損傷を確認、機体主機出力30パーセント低下」
※
視界を閃光が埋めつくす―――。
暗転。激震。
数秒の後、網膜を刺々しく刺す光がHUDに点灯する。
「08、胸部コクピット部に致命的損傷を確認。シミュレーターを終了します」
オペレーターのいつも通りの報告に、クレイはまともに応答できなかった。
『敗北』の言葉が頭蓋の裏にへばりつく。
ただの敗北ではない―――完璧な敗北だ。
クレイ・ハイデガーは自尊意識の高い人間だ。それ相応の実力があるという自負のもとの自尊なだけに、クレイは茫然と暗い虚空を眺めていることしかできなかった。
網膜に焼き尽く真紅の双眸。
終始なりっぱなしだった、鋭い攻撃警報の音。
造り物の世界で感じた、あまりにもリアリティのある超越の「力」。ニュータイプなのか、それに「類するもの」の「力」なのか、ともあれクレイはあまりにも感じた恐れと畏れと非力に、指一本動かせない。
空気の抜けるような音とともに、シミュレーターの扉が開く。さっと差す温い陽光を受けてなお、クレイは身体を強張らせることしかできなかった。
「生きてるか?」
間延びした声。攸人の声だ、と気づき、ようやく意識を取り戻したクレイは、うめき声のような返事をすることしかできなかった。
「生きてるかぁ?」
呻き声の返事は聞こえなかったらしい。今一度同じことを聞いた攸人がコクピットの前に顔を出した。
いつも通りの、屈託のないほがらかな顔だ。
「実戦だったらKIAだよ」
「コクピットにサーベルぶっ刺されてたもんな。即死即死」
空想上のサーベルを逆手に構えた攸人がぶんぶんと腕を振り、頓着なく言う。こういうところは、「わかって言っている」のが攸人という男のいいところであろう。
まだ思うように動かない身体を揺すり、のろのろとシートから立ち上がった。コクピットから這い出すように外に出、ヘルメットを脱ぐ。さわさわと肌を撫でる冷たい風に、ぞわりと身体を震わ
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