7話
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ことは無いが、本やインターネット上の画像などで見たことはある―――案外、コロニー内の夜空も似たようなもので、つまらなかった感想を抱いた記憶がある。
深蒼の夜空に浮かぶ、幽邃の光が数十数百とひしめき合う光景。違いは、地球から見える星々の光は恒星が放った深淵よりの聖光であるのに対して、コロニー内から覗えるのは人々の営みの光であるという点だ。
大抵の人―――スペースノイドの人々までも、地球で見た夜空の方が美しいと礼賛する。コロニーの空を美しいというものは、地球に降りられない「宇宙人」が僻みで言っているだけでしかない。そんな宇宙世紀開闢以来繰り返され今に至る横柄な論調を、クレイはどこか苦々しく思っていた。確かに、手の届かない遥か彼方に赫々と煌めく炎の星の光を美しいとは思う。しかし、人々の営みの光のその力強さも、同じくらい綺麗なものではないか―――。
「お。やっぱり走ってたか」
不意に声が肩を叩いた。それでも、クレイが余裕を持って「慣習って奴だよ」と返せたのは、いつも耳に親しんだ声―――攸人の声だったからだ。
背後に視線をやれば、フライトジャケットにSDUという出で立ちの攸人が両手をポケットに突っ込んだまま、冷風に黒髪をそよがせていた。
「よくやるよ」
感嘆と呆れが混じったような声だった。とはいえ、攸人の瞳は無邪気そうにクレイを見返していた。
「お前と違って非才の身故な」
「自主的にやる分には十分十分。俺なんてさっきまでこれ読んでたわ」
ひらひらと右手にぶら下げていた本をそよがせながら、どっこいしょ、とまるで老年のような掛け声とともに攸人が隣に腰を下ろす。シャワーに浴びたばかりなのか、少しだけ濡れた髪から石鹸の無垢な香りが鼻孔に触れた。
攸人の右手の本―――ライトノベル、とかいう本だ。ぱらぱらとページをめくる友人を脇目で見ながら、ワザとらしく溜息を吐いた。
「ラノベねぇ……息抜きで読む分にはマシなんだけど」
「ラノベを小説として読むからだめなんだって。あれはイラスト集なの」
「そーなの?」
「いやまぁ誇張だけど。正確に言うならあれは「小説」ではなく「ライトノベル」という新しい何かとして捉えなければならないとは思うんだが。まぁそんなに気軽に区別できるわけじゃないけど」
先ほどまでページをめくっていた本をメガホンのように丸めると、無理やりズボンの後ろポケットに突っ込んだ攸人が身体を横にする。クレイも横になった。
人工の星光が張り付いた空を自然と見上げる形になった―――きれいは変わらずに、在る。
そういえばさぁ、と思い出したように言うと、もそもそと攸人の陰が動く。ジャケットのポケットでもまさぐっているらしい。
彼の目的のものが出てきたのは、直ぐのことだった。
「さっき自販機で買ったんだけど、これ、飲めよ」
攸
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