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逆さの砂時計
北の騎士の選択
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秒前まで私の腰に下がっていた短剣の、柄頭が。
 師範の脇腹にめり込んでいる。
 かなり強く打ち込んだ筈だが、師範は苦痛を表に出さない。
 見事です。

「だが、俺に捕まった時点でお前は死んだも同然だ。一旦飛び退いて距離を置くか、先に俺を斬るべきだった。俺だって、いつお前に危害を加えるか、分かったもんじゃないんだぜ? 油断するなよ、お嬢」
「ソレスタ。神聖な教会での不穏な言動は控えてちょうだい」
「はっはっはっ。この程度じゃ騒ぎにはならないさ。なあ、フィレス?」
「ええ。そうですね」

 師範が手を離してくれたので、私も短剣を収める。

「まずは、刃をもっと磨け。今のお前程度じゃ、仮に仲間を得てもまとめて殺られるのがオチだ。仲間ってのはお前の盾じゃない。お前自身がしっかりしてなきゃ、仲間にされたほうが大迷惑だからな」
「はい」
「それと、移動は羽根を使え。持って念じれば使えるって言ったんだろ? 理窟は解らなくても、現象を確認したんなら、関係者の意見に耳を傾けろ。聴ける物はすべて聴け。情報の精査は状況が勝手にしてくれる。後回しだ。人間の常識は一旦忘れろ」

 そんな難しいことを、さらりと。

「とは言っても、フィレスより強い奴なんてそうそういないんだよな……。刃を磨こうにも相手が不足してるし……なにより、剣じゃないだろ、多分。必要な力ってのは」

 ガリガリと頭を掻く師範。
 アーレストさんは目蓋を閉じて、背もたれに体を預けた。

「ある程度の調律なら可能だと思いますが、なにせ未知の領域ですからね。正しく奏でられるかどうかは保証しかねますが、試してみますか?」
「調律?」
「人間には人間の。植物には植物の。生物にはそれぞれ独特な音楽が宿っているのです。その音が乱れると、体調を崩したり怪我をしやすくなったり、著しい不調が出てきます」
「音楽……ですか?」
「貴女の場合、人間の音と別の音が混じって不協和音になっている。それを別の音に寄せて、人間ではない音楽に変えるのです」

 言ってることが既に人間の常識を越えてる気がする。
 まさか、アーレストさんも怪奇現象の仲間なのだろうか。

「あまり難しく考えないでください。特別おかしなことでもなんでもなく、日常的に『体の調子が悪い』とか『ふとした拍子に』とか言うでしょう? つまり、そういうものを調()()()()しましょうか、という話です」

 解るような、何か違うような。
 ちらりと師範の顔を覗くが……
 自分で判断しろ、という意味だろう。
 横を向いてしまった。

 そうですね。
 自分で考える頭があるのだから、頼るべきではない。

 正直、要領は全然掴めてないのだが。
 師範は「情報の精査は状況が勝手にしてくれ
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