北の騎士の選択
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…………え?
「貴女から、人間とは全然違う音が聴こえるのですが。かといって悪魔とも違う、清らかな音色だ。こんな音は聴いた例がない」
「……『音』?」
アーレストさんの瞳が、すぅっと細くなる。
「強いて喩えるなら、焔。蒼い焔だ。猛る赤い炎よりも熱く、青い炎よりは静かに燃える光。暗闇に凛と響く、澄んだ音がします」
意味は解らない、が。
蒼い焔……『蒼』?
怪奇現象の最中に自分を包んでいた光の色を思い出す。
「アーレスト。多分、フィレスは自分で理解してないと思うぞ」
まさにその通りです、師範。
「師範には解るのでしょうか?」
「いーや? さっっぱり解らん!」
きっぱり、さっぱり、すっきり答えてくれるのは気持ち良いのですが。
残念です、師範。
だが、話すきっかけは貰えたようだ。
「実は……先日から奇っ怪な出来事に巻き込まれているのです。自分一人の手には余る内容なので、よろしければ相談に乗っていただけませんか?」
二人は顔を見合わせ。
揃って笑顔を返してくれる。
私はこくりと頷いて、これまで体験した怪奇現象の数々を打ち明けた。
まずは、川で綺麗な宝石を拾ったこと。
白黒の男性二人が訪れた夜に、自宅で見聞きしたすべて。
宝石から虹のような曲線を描いて伸びた、薄い水色の光が示した方角。
山賊のアジトで起きたことのすべてを。
「それで、白黒の二人組が居るかも知れない東へ行こうとしてた、と」
「他に手掛かりが無かったので」
「ふーん……」
顎を撫でつつあさっての方向へ視線を泳がせる師範とは対象的に。
アーレストさんの金色の眼差しは、正面に座る私を見据えてる。
やはり、何かを探るように。
「お前、死ぬぞ」
顎を撫でていた手で自身の後頭部を掻く師範に、顔を向ける。
「やはり、師範もそう思いますか?」
「ああ。話を聴いた限りじゃ、お前に勝ち目は無い。瞬きの間にズドン、で終わりだ。でなきゃ、捕まって慰み者になるか」
ふむ。
どうやら、師範の意見と私の実感に開きはないらしい。
「師範なら、どうしますか?」
「素直に逃げる」
貴方の潔さは他の追随を許さぬ完璧さで、いっそ神々しいです、師範。
「それが嫌なら仲間を集めて刃を磨く。事情を知ってる可能性がある二人を探すのは正しい判断だろう。だが、方法と順番を間違えてるな」
「方法と順番、ですか」
テーブルから降りた師範が、私の横に回り込み。
突然、私の胸倉を掴んで引っ張り上げる。
少しの揺らぎもない瞳が、呼吸を感じるほど間近に迫った。
「……冷静な判断はできてるな」
「師範に教わったことですから」
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