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逆さの砂時計
北の騎士の選択
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この方こそ。

「お久しぶりです、師範」

 学徒だった私に武芸と生き方を伝授してくださった恩師、ソレスタ様だ。



「いやあー、ビックリしたぞ! まさかアーレストがフィレスを連れてくるとは思わなかったからさぁ〜。なになに? 休暇中? 自宅は放置してきたワケ?」
「あのねえ、ソレスタ。同じ神父でも、一応私が面倒を見てる側なのよ? 『様』を付けなさい。『様』を」
「良いじゃないか。年齢は俺のほうが上なんだから」
「年齢よりも勤続年数や立場が物を言う世界なのよ、ここは」
「せっまいなあ〜。そんなんじゃ大きくなれないぞ、アーレスト……って、もう十分大きいか。はっはっはっ!」
「アンタね……」

 テーブルの角に腰掛けて。
 椅子に座ってるアーレストさんの背中をバシバシと叩く。

 懐かしいな。
 私も、学徒時代はよくあんな風に背中を叩かれていたものだ。
 顔や体つきは中肉中背の……そこらにいる三十代の青年そのものだが。
 師範の腕力は並じゃない。
 うっかり力を抜いてる時にあれをやられると、本気で息が止まるのだ。
 もちろん、あれくらいで本当に死ぬことはないが。
 ちょっとした臨死体験ができると、学校中で評判だった。

「師範は騎士団長を辞めて、今度は神父に挑戦ですか?」
「ああ。世界を知るには、何事も下調べと実行が肝要だからな!」
「楽しそうでなによりです」
「おう。ここはここで、なかなか面白いぞ!」
「興味本位で転職して、短期間で教会を預かる神父になるなんて。こっちは頭が痛いわよ、もう」

 アーレストさんが両手で頭を抱えてる。

「……それは異例なのですか?」
「ソレスタは、修了まで最低でも五年は掛かる修行期間を全部すっ飛ばして役職に就いたの。前例が無いわ。本当にありえない。それでいて、信仰心はきっちり認められてる。こんなこと、真面目な修行徒達が聞いてしまったら涙で滝が出来上がるでしょうね」

 ふむ。
 それは、つまり。

「やはり、師範は素晴らしい!」
「だろ? もっと褒めれ」
「はあ。まあ、良いけど。ソレスタが何かにつけて貴女の自慢ばかりするわ気に掛けているわで、毎日毎日鬱陶しいくらい落ち着かなかったので、ぜひこの機会に会ってもらいたかったのです。余計なお世話かも知れませんが」

 アーレストさんが私を知ってたのは、師範が私の話をしてたからか。

「いえ。再会できて嬉しいです。ありがとうございます、アーレストさん」

 騎士学校を卒業した後、直接顔を合わせる機会は無いと思ってたから。
 嬉しい……というよりも、今の状況ではありがたい。
 師範になら、諸々を相談しても良い気がする。


「ところで、フィレスさん。貴女は何者なのでしょうか?」


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