放浪剣士
魔女の血を継ぐものV
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足取りが早くなる。
近くまで行くと、二人は向かい合い何かを話しているようだった。
残念ながら、雨音でなにを話しているかまでは聞き取れない。
もう少し近付いてみよう。
一歩を踏み出したその時だった。
激しい雷鳴が鳴り響いたかと思うと、そこにいた人影は一つになっていた。
そう…人影は。
みるみる筋肉の膨張を始める片方の人影。
その影は人らしさを脱ぎ去り、異形へと姿を変える。
雷光に刹那写し出されるその姿。
鋭い爪と牙。
体格は人影と比べふたまわりは巨大化し、だらりとその両の腕をたらす。
人狼。
始めて見た。
文献や噂でしか見たことがない希少な生き物だった。
本当に実在していたとは―――。
ある種の感動を覚えたのも束の間。
私はすぐに我にかえり確認する。
まさか―――。
どちらだ―――。
それは、次の雷光で明らかになった。
あの母親だ。
対面する人影は彼女。
だとすれば、あの人狼はほぼ間違いなかった。
私は考えるよりも先に剣を引き抜き彼女の横へと立っていた。
「ついてくるだけじゃなく、首まで突っ込んでくるのね」
私のほうを見もせず彼女は言う。
しかしそれは私も同じだった。
目の前には化物。
視線をそらすわけにはいかない。
「退いてなさい。人間のあなたが相手をして良い存在ではないわ」
と、彼女がゆるりと人狼へと掌をかざすと、あのときと同じまばゆい閃光と熱風が私を襲う。
だが、あの時とは違う。
私はその正体をはっきりとこの目で確認した。
彼女の掌から人狼へと、真っ直ぐに放たれる炎の渦。
この雨のなかでも衰えはしない…いや、むしろ降り注ぐ雨をも蒸発させてしまうほどの高熱だった。
しかし、それでも人狼を焼くにはいたらず。
身にまとわりつく炎を腕で一払いし消し去ると、咆哮をあげ鋭い爪で私たちへと襲いかかってきた。
咄嗟に剣で受け止めようと身構える。
が、しかし―――。
脇腹に鉄球がぶつかったかのような重い衝撃を受け、私の体は吹き飛び地面を転がっていた。
彼女だ。
足で私を吹き飛ばし、自らは人狼の一撃をひらりとかわしていたのだ。
「本当に馬鹿な奴ね。ただの人間ごときが受け止められると思っているの?」
庇ってくれたのか―――?
剣を支えに身体を起こし、再び人狼に向かって剣を構え直す。
「残念だけど、今ここであなたに死なれては困るのよ」
どういう意味だろうか?
いや、今はそんな事はどうでも良い。
奴をどう倒すか、それが最優先だ。
作戦を整える暇もなく、人狼は二撃目、三撃目と攻撃を繰り出してくる。
受け止めることはできない。
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