第4話
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―――。秋を代表する物はいくらでもあるが、それをまるまる取り入れるのはいささか気が引けた。もっと味わい深い特徴はないのだろうか。
「秋に関すること、ですか?」
一人で唸るのもなんなので、図書委員の生徒に聞くことにした。
「そうですねえ……」
両掌をこすりながらその女子生徒は小さな声でうなっている。右胸につけられたワッペンには『副委員長 高二 岡田』と書かれていた。
「秋だったら、御月見かなあ」
「中秋の名月ですか」
なるほどという顔をしながら智が尋ねると、掌を合わせたまま、その生徒はゆっくりと頷く。
「現代小説じゃなくてもいいんですか?」
「と、言いますと?」
智の問いに副委員長はすっと立ち上がって、本棚の方へ小走りで向かって行った。万単位である蔵書探しに迷いのない動きに、さすがは副委員長、と智は感心した。
カウンターの後ろの棚に整列したDVDのタイトルをじっと眺めていると、二分ほどで彼女が戻ってきた。本を二冊持っている。
「竹取物語、なんてどうでしょうか」
彼女が智に本を差し出す。一つは薄いベージュの表紙にいばらのような紋章が描かれた本である。紋章の上には『竹取物語』と書かれていた。もう一つは現代語訳のようで、伊勢物語も収録されているようだ。
竹取物語など、中一の頃に国語のグループ学習で触れて以来、智はその存在をすっかり忘れていた。竹から生まれた少女が男どもをフリまくって月に帰るお話、などというざっくばらんな印象しか頭になかった。
「これ、中学生の時に読むのと高校生になってから読むのと、印象が全然違うんですよ」
声をはきはきさせて彼女が語る。
「かぐや姫の苦悩や葛藤がきれいに描写出来ると、とても面白いと思いますよ」
「そうですか……」
副委員長の言葉に智は少しばかり頭の中で考えを巡らせた。
衣装が大丈夫か、という問題である。竹取物語は古典文学であるので、登場人物の衣装も十二単や束帯といった平安装束である。今回の『芸術演出』は直樹に頼んでしまったから、「手芸部に土下座しろってことですか」とどやされることだろう。その辺りは「公的行事だから」の一点張りで何とかすることにしよう、と彼は決意を固めた。
気が付けば、本を見ながら黙っている智を副委員長は心配そうに見ていた。
「別のにした方がいいですか?」
声のトーンが少し下がっている。智は両手を小刻みに振って
「違います、違います。どんな演出にしようかなあって、考えてただけです」
と慌てた様子で答え
「これの貸出、お願いします」
と、二つの本
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