第4話
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うなりながら立ち上がった。
「歌詞はどうしますか」
智が問いかける。ミュージカルなのだから歌唱も取り入れるのだが、作曲と編曲を音楽科教員の立野が担当する一方で、演出家の部員はそれよりも前に歌詞を作らなくてはいけないのだ。
「んー、それも考えといて」
「分かりました。脚本も仕上げちゃいますね」
演目の骨子の打ち合わせに立ち会ったことの無い浩徳は、あまりにもさらりとしたやり取りに拍子抜けしてしまった。
用事を終えた二人は、三階の教室へ向かうために階段を上っていた。
「重そうだな。持つか」
「いや、中身けっこう軽い」
こんなやり取りをしながら二人が踊り場にさしかかった時、上から駆け下りてきた女子とぶつかりそうになった。
「ごめんなさい!」
じめついた空気をかき回すかのように、柑橘系の香りが二人の鼻をくすぐる。
「いや、大丈夫だから」
緊張した顔で後頭部を掻きながら智がそう返すと、彼女は顔を上げた。
「あ、高山君! やっぱり用事あったじゃん」
わずかながらの非難を交えて浩徳の持つ箱を奪おうとするのは、中森から用事について知らされた美月であった。
「ここからは私が持つよ」
「いや、もうすぐだし、いいよ」
「じゃあ、半分だけ」
美月は上に載っている方の箱を持とうとしたが、予想したよりも重かったらしく「おっと」と軽く声を上げた。
「先行ってるね」
そう言って階段を上がっていく美月の後姿を見ながら
「あれが噂の編入生か」
と智は感心したような声でつぶやいた。
「美人だな」
「そりゃあ、まあ、美人だわな」
つんとした態度で浩徳が答える。
「あの子が日直ってことは、席近いのか」
「そう、真横。おかげで授業中寝れないんだよ」
うんざりそうな声を出す浩徳に、「緊張して、か?」と智が肩を叩く。
「ちげーよ。ノートとれってうるさいんだ」
「そいつは災難だな」
そう言って智は手を軽く振り、B組の教室に吸い込まれていく。
軽くなった箱を持て余しながら、浩徳も自分の教室へと向かった。
* *
水曜日は部活がないので、演目の原案作りも兼ねて、智は放課後を図書館棟で過ごしていた。
学生の部活とは言え、演劇は演劇である。演者や照明、大道具など様々な仕事が各部員に付与されている。その中で最も重要かつ責任重大な役職が、『演出家』である。
月姫学園演劇部の演出は三人の部員が担当している。内訳は、脚本や歌詞、演
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