第4話
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「えっ、『月姫納涼祭り』で演劇やるんですか」
液晶画面に映し出されたメールの内容を見て、智が大きな声を上げる。
「そうなんだよお。やばくない?」
「これは……。やばいですね」
今年の秋に還暦を迎える男性と背の高い好青年の会話にしては滑稽にも思えるが、この演劇のオファーはそれほど二人に衝撃を与えたのである。
ミュージカルを披露するようになってからの十年間、演劇部は学校行事だけにとどまらず、多くの公的行事にも参加してきた。中でも『月姫町感謝祭』は、月姫町にある五つの高校から管弦楽部や吹奏楽部、軽音部が選ばれ、美しい音色を奏で競い合う芸術コンクールのようなもので、この感謝祭の名物として演劇部が毎年演劇を披露している。その評判はすこぶる良い。
その一方で、この『月姫町納涼祭り』は名前のとおり夏に別れを告げる納涼祭りであり、芸術とは全く接点がなかったことから、二人にとっては想像もしなかったオファーなのであった。
「しかも演目に条件が合ってさあ」
「なんでしょうか」
「秋に関する演目にしてくれっていうんだよ」
「秋に関する、ですか……」
智は自分の顎を右手でなでながら、立野のデスクに置いてあるインスタントコーヒーの小瓶に目をやっていた。
「お、新島と先生、何やってるんですか」
背後から掛けられた声に振り向くと、中くらいの段ボール箱を二つ抱えた浩徳の姿があった。
「日直か?」
「取りに来いってさ」
持っている箱を腕の中で軽く弾ませる。
「で、何の話してるんですか」
「演劇のオファーが来てるんだよお」
立野が手招きをし、浩徳の持っている箱を空いているデスクの上に置かせた。
「はあ。オファーですか。どこから?」
「それがねえ、見てみなよ」
浩徳がパソコンを覗きこむ。
「えっ、『月姫納涼祭り』ですか?」
「やばいでしょ?」
立野が顔をにやつかせている。
「これは……。やばいですね」
男三人がやばいというのだから、やはりやばいのだろう。
「しかもこれ、『秋に関する演目』ってあるじゃないですか」
「そうなんだよ」
浩徳の言葉に智が間髪入れずに答える。
「新島が書くのか」
浩徳が尋ねると、顎においていた手を外して腕を組み
「そうなるかと」
と頷いた。
「期末試験前までに何やるか決めといてね」
「分かりました」
「さ、ホームルーム始まるから移動だ、移動」
ノートパソコンをたたんで、立野は
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