第4話
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ず解読できない。浩徳も高一の秋も終盤あたりにようやく解読できるようになったぐらいで、過去にはパソコン部が『中沢フォント』なるものまで作ったぐらいだ。だが、彼の授業は「板書を制すれば試験を制す」とも言われるぐらい、板書がそっくりそのまま試験に出るので、高評定をもらいたい生徒にとっては美味しい授業である。
「うん。あれはちょっとね」
浩徳が同情した顔でそう返すと、「でしょ?」と美月は非難を込めた声で頷いた。編入してきて一週間しかたっていない美月にとっては実に苦な話だ。
「だから、前回のノート、少しだけ見せてくれない?」
「お願い!」と言って美月は両掌を合わせた。やり取りを聞きつけたらしく、クラスの何処からともなく「貸してやれよ」という目線が浩徳に突き刺さってくる。中には、ノートを急いで取り出そうと鞄をひっくり返している男子もいる。
「うん。いいよ」
美月の顔がぱっと明るくなる。
「ほんと?」
「うん。別に、減るもんじゃないし」
この言葉に安心したらしく、彼女は「よかったあ」と強ばらせていた肩の力を抜いた。
「いや、俺そんなにいじわるじゃないよ?」
彼女の振る舞いに慌てて浩徳が返す。周りからの視線が心なしか強くなったと感じたのだ。
「違う違う」と言って、美月は両手を顔の前で振った。どうやら、「『授業中起きてろ』とか言うくせに、都合よくノートを借りようとしているのはおかしい」と浩徳が思っていたらどうしよう、と気に病んでいたらしい。
「じゃあ貸したくない」
浩徳が顔をにやつかせる。
「ええー、ひどい!」
「うそうそ。貸しますよ」
「当たり前だろ」と浩徳がへらへらしながらノートを渡すと、美月は「ありがとう」と言って、怒り半分安心半分の顔で微笑んだ。周囲の目線が非難から羨望に変わったことに浩徳は気づいていなかった。
「へえー。高山君って、字きれいだねえ」
早速写そうとノートを開いた美月が、口を丸く開けて感心している。浩徳は頭をぽりぽりと掻くと
「写し終わったら返してね」
と、ペンを握っている美月に話しかけた。
「うん。ありがとう」
垂れている前髪を掻き上げて破顔するうら若い娘を見て、青年が照れ隠しに見た窓の外は相変わらず曇っていた。
四限目のホームルームが始まる前、智は演劇部顧問の立野に呼び出されて教員室にいた。
「これなんだけどさあ、新島ちゃん」
立野はバリトン歌手に相応しい落ち着いた声でそう告げると、デスクチェアを軋ませながら体を起こして、ちまちまとノートパソコンをいじり始めた。
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