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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
33.君を想う人を忘れないで
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狭い。対してこちらは機動力の高いナイフ。リーチの差はあるが、あながち不利でもない。狭い通路なら恐らく射程の長さを生かして突きを放って来る可能性が高い。それに対応できれば――

「そこまでです」

 凜とした声が、その場を制した。

「街中で剣を交えるとは、穏やかではありませんね」
「あ……リューさん?」

 そこにいたのは『豊穣の女主人』の従業員、エルフのリュー・リオンだった。
 買い物中だったのかその手には買い物袋が抱えられているが、激昂する男に向けられた鋭い敵意が感じられる。一瞬戸惑った男はしかし、すぐに高圧的な態度を取り戻した。

「何だぁ?口出しすんじゃねえよ!とっとと失せろこの――!」

「――吠えるな」

 その一言と共に、リューの瞳の奥にどす黒い殺意が男を貫いた。
 次に口を開いた時にはその喉元が掻き切られているような幻覚を覚える、恐ろしいまでの殺意。

「あ……な……」
「手荒なことはしたくありません――『やりすぎてしまう』ので」
「グッ……クソがっ!!」

 気圧された男は何も言い返せず、悪態をつきながら剣を収めて足早に路地へ消えていった。
 その後ろ姿を見送ったリューは、ふぅ、とため息をついてベルの下に歩み寄る。

「怪我はありませんか?ベルさん」
「ええ、大丈夫です。それにどうやらあの子も無事逃げられたみたいですし……」
「あの子?」
「さっきの人に襲われてた女の子です。リューさんに相手が気を取られた隙に路地裏に逃げたんだと思います」

 先ほどまでへたり込んでいた少女の姿はもうない。何故あのように追われていたのかは定かではないが、位置的にさっきの男とは真逆の方角に逃げたので恐らくは大丈夫だろう。話を聞いたリューはどこか不信感を募らせたように目を細める。

「ふむ、助けてもらった相手に礼の一言も無しとは……些か義に欠けるお方ですね」
「何か事情があったんでしょう。隠し事は深く詮索しないのが男の……って、これ先輩の受け売りでした」
「相変わらず仲がいいようで何よりです。しかし、余り無茶はしない方がいい。怪我をしたと知れればシル達も悲しみます」
「心配かけてすいません……あの、ありがとうございました!」

 リューは会釈をすると、店の方角へと消えていった。
 あの時の殺気――実はリューは凄く強いのだろうか、とベルは疑問を抱く。剣も抜かずに威圧だけで相手を追い払うとは只者ではない。
 しかし、それを追求しようとは思わなかった。元々『豊穣の女主人』は訳ありの従業員が多いらしいし、無理に聞きだすのは紳士的ではない……とリングアベルは言うだろう。
 
 今日は長い一日だったな、とごちながら、ベルは改めてホームへの帰路についた。

 そんな自分の背中を見つめる小柄
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