第二百二十二話 耳川の戦いその三
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「それで来るわ」
「あの島津でそれですか」
「そうなる、しかしな」
「島津がそうしてきてもですな」
「やるしかないのじゃ」
これが信長が言うことだった、その目は正面の彼方を見ていた。その目での言葉だった。
「そうした時じゃ」
「今は」
「ここで島津に敗れるか引き分けるとな」
「島津は息を吹き返しますな」
こう言ったのは幸村である。
「そして戦は長くなり」
「奥州の大名達もじゃ」
「織田家に従うことを躊躇しますな」
「そうなりかねん、すぐに天下を収める為にはじゃ」
「負けられぬ戦ですな」
「そういうことじゃ、ここでは勝つしかない」
天下を早く収めることを考えればというのだ。
「是非共な」
「ですか、では」
「奇妙が早く天下を収められるかも見ようぞ」
信長はこう言って後詰のままだった、そうして信忠の戦を今も見るのだった。信忠は実際に軍勢を耳川まで進めた。
義久は織田の軍勢が来たのを見てだ、こう言った。
「高城は捨てよ」
「城をですか」
「捨てますか」
「そうじゃ、伏兵もせぬ」
こうも言うのだった。
「それもな」
「ではここはどうされますか」
「一体」
「籠城も伏兵もせぬとは」
「それでは」
「川を背にして布陣でよ」
義久は厳しい顔になって言った。
「よいな」
「兄上、それでは」
義弘は兄のその言葉を聞いてすぐに問うた。
「背水の陣ですか」
「そうじゃ」
まさにとだ、義久も答えた。
「ここは背水の陣を敷きじゃ」
「そのうえで戦いますか」
「全軍でな」
「全軍私兵となりますか」
今度は歳久が問うた。
「この戦いでは」
「誰もがな」
「我等もですな」
「退くことは出来ぬ」
後ろは川になる、それでは出来る筈がない。義久はその背水の陣についてあえて話したのである。
「生きたければ、そして九州を手に入れたければじゃ」
「戦うしかありませぬな」
最後に家久が言った。
「まさに」
「皆の者、盃を取るのじゃ」
そしてその盃はというと。
「水盃をな」
「死を覚悟してですな」
「戦えと」
「そう仰るのですな」
「そうじゃ、全ての者がな」
義久はまた弟達に話した。
「死兵となれ、よいな」
「畏まりました」
「では我等も槍を取ります」
弟達も応えた、そうしてだった。
島津四万の軍勢は皆水盃を手に取り高城まで放棄してだった、伏兵もせず。
全軍で耳川を背にして布陣した、その彼等を見て。
信忠は全軍にだ、冷静に言った。
「鶴翼の陣を敷くぞ」
「鶴翼ですか」
「その陣で攻めますか」
「それも十二段じゃ」
十二段の鶴翼、その陣で攻めるというのだ。
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