巻の十 霧隠才蔵その九
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「別に鬼でもあやかしでもありませぬ」
「南蛮の芸人ですか」
「そう思って下され、道化師といいますか」
「道化、確かに」
霧隠はその言葉に反応した。
「その格好はそれじゃな」
「左様、堺で見てから面白いと思いまして」
「その格好をしてみたか」
「左様です」
「成程のう」
「まこと南蛮はわからぬ」
穴山は言いながら己の背の鉄砲を見た。
「これも南蛮のものじゃがな」
「南蛮には色々珍妙なものもあるな」
海野も言う。
「この者は最たるものじゃが」
「まことに人間なのか」
由利はかなり歌川しげにだ、男を見て思っていた。
「御主は」
「この国の生まれですぞ」
「そうであるか」
「まあとにかく御主はこれから何処に行くのじゃ」
清海は男の行く先を尋ねた。
「そういえば名もまだ聞いておらぬな」
「行く先は比叡山です」
「あの山に行くのか」
「その周りを見物に」
「山には入らぬか」
「この格好で比叡山に入れば鬼と思われます故」
「うむ、わしから見てもあやかしにしか見えぬ」
清海もこう思っていた、実際に。
「その格好であそこに入ればそう思われるな」
「そうでありますな、ですから山の入口で遊ぶだけです」
「左様か」
「はい、そして名は」
「その名は」
「そうですな、この格好ですから」
男は考えつつ清海に答えた。
「化物とでもしましょうか」
「何じゃ、その名は」
清海は首を傾げさせた、だが男のその白塗りの顔は笑っている様に見えた。化粧をしているその唇が赤く笑っている感じであるが故に。
巻ノ十 完
2015・6・11
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