巻の十 霧隠才蔵その八
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そしてだ、ここでだった。
狼の気配のする場所を越えてだ、さらに先に進むと。
宿場町があった、そこに入ると相当に風変わりな者がいた。
細い袴にしては奇妙な下穿きにだ、これまた草履にも思えない履きものを履いている。その下穿きもこれまた不思議な形の上着も色は様々でだ。
そしてだ、首のところに皿の様な白い波がかったものを付けていてだ。頭には二本の長く柔らかい角の様なものがある被りものがある。
顔は白く奇妙な化粧をしている、右目のところは赤く左目のところは黒く塗っていて左目のところは涙の模様も描いている。口は紅に唇を大きくしている。
その男がだ、幸村達が目を閉じているのと見て言って来た。
「おや、これは」
「これは?」
「多くで旅をされていますな」
「道中で知り合いまして」
「そして家臣に迎えられたと」
何処かおどけた様な動作でだ、奇妙な男は言って来る。
「左様ですな」
「何故それがわかるのか」
「はい、貴殿が先に立たれているからです」
このことからわかったというのだ。
「それで、です」
「成程、立ち位置でか」
「そう思いましたが」
「確かにその通りじゃ」
幸村は男に正直に答えた。
「それがしがこの者達の主じゃ」
「やはりそうですか」
「うむ、ただな」
「ただとは」
「御主、非常に奇妙な身なりをしておるが何者じゃ」
幸村も男に問うた。
「一体な」
「これは南蛮の服ですな」
筧が男をじっくりと見てから幸村に述べた。
「全て」
「南蛮にはこの様な服もあるのか」
「あの穿きものはタイツといいます」
筧は男が穿いているものから述べた。
「そして上の着物はブラウス、襟にあるのはカラーです」
「ではあの先の尖った変わった草履は何という」
「あれは靴です」
筧は幸村の問いにも答えた。
「南蛮の履きものですが」
「そういえば天平の頃の官服でも履いておったな」
「はい、明にも靴があります」
「そうじゃったな」
「明や南蛮では靴を履きます」
「草履ではなくじゃな」
「左様ですがあの者の靴は」
筧も男の靴、非常に奇妙なそれを見つつ述べた。
「その靴でもかなり変わっています」
「何か化けものの様ですな」
望月はその靴を見てこう言った。
「あの靴は」
「わしもあの様な靴ははじめて見た」
南蛮人が多くいた安土に住んでいた筧にしてもというのだ。
「これまた奇妙な靴じゃ、奇妙なのは靴だけではないが」
「化粧も被りものもな」
根津は男の顔と頭を見ている。
「白塗りの上に奇怪に塗って鬼の角の様になっておって」
「一体どういった者じゃ」
海野も首を傾げさせるばかりだった。
「この者は」
「地獄から出た鬼か山にいるあやかしか」
伊佐は男の外見を
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