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White Clover
序章

[2]次話
少女は、しんと静まる森の奥深くにある小さな集落で生まれ育った。

赤き髪とエメラルドのように美しい緑の瞳を持ち、周囲を和ます愛嬌と野山を駆け回る快活さも持っていた。

小さく、洒落た物の一つもない集落だが、心優しき人々と豊かな自然に囲まれ不自由を感じることもなく幸せに過ごしていた。

ただひとつ、不満があるとするならば、それは刺激だった。

穏やかな毎日。

代わり映えのない毎日。

毎日のように、少女は集落の長へと問うた。

なぜ、集落の外、森のその先へと出てはならないのか、と。

長の答えは決まって同じだった。

森の外には危険しかない、と。

毎日のように問いかけても、それ以上も以下もなく、長はそれだけを少女へと言い聞かせていた。

危険とは、いったいどんな危険なのだろう――――。

言いつけは、長の思惑とは裏腹に少女の好奇心をいっそう駆り立てた。

少女は欲していた。
いまだ見たことのない大地を。
心踊るような刺激的な出来事を。

その欲求を満たすため、少女はついに禁忌の扉を開く。

集落の人々の目を掻い潜り、暗き森を進んで。

その途中、少女は祠を見つける。

森の中、ひっそりとただそこにあるだけの祠は、まるで他者を近づけんとしているかのように不気味な存在感を放っていた。

不気味に思いながらも、少女は祠の扉へと手を伸ばす。

少女の好奇心はそれほどに強かった。

危険なほどに。

何も知らぬ少女は危険を知らなかった。

静かに、緩やかに開かれた扉のそこには、一冊の書物が祭られていた。

ひどく損傷し劣化した祠とは裏腹に埃ひとつ付いていないその書物。

まともに教育など受けてはいない少女には、言葉は知っていても書くことも、ましてや読むことも出来はしない。

しかし、少女はその書物を開かずにはいられなかった。

まるで、書物が少女を誘うかのように。

一枚、また一枚と少女は頁数をめくる。

不思議な感覚だった。

読めない。

しかし―――。

理解できるのだ。

そこに記されているのは世界の始まり―――。

そして、終焉。

読み進めていくうちに、少女の中で初めて味わう感情が芽生える。

恐怖。

それでも頁数をめくる指は止まらない。

ついに、少女は最後のページへとたどり着く。

そこには、ただ一言記されていた。

『新たな継承者に祝福を』
[2]次話


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