第三章
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こっそりとだ、その若い店員の蓑田久一に聞くとだ。彼はこう言った。
「仕方ないよ」
「仕方ない?」
「仕方ないっていいますと」
「どうしてですか?」
「どうして仕方ないんですか?」
「だってね、俺達は正社員だから」
それでとだ、蓑田は二人に答えた。
「ここまで働かないと駄目なんだよ」
「正社員だからですか」
「それでなんですか」
「一日十何時間働いてですか」
「それも週六日」
「資格取る為の勉強もして」
「研修もあるんですよね」
二人でだ、蓑田に問うた。その痩せて青い顔になっている彼に。
「倒れません?」
「あの、本当に」
「俺はまだ大丈夫だよ」
何処か虚ろな目でだ、蓑田は花純と優花に答えた。
「まだね」
「まだって」
「けれど」
「シェフの岡本さんや店長に比べればね」
彼等と比べればというのだ。
「あの人達は俺よりもだから」
「お二人も正社員ですよね」
「他のシェフの人達も」
「そうだよ、俺はね」
それこそというのだ。
「大丈夫だよ、それにこうなるまでが大変だったし」
「こうなるまで?」
「っていいますと」
「うちは最初契約社員からはじまるんだ」
その立場からだというのだ。
「一年以上こうして働いて。そして正式な入社試験を受けて上の方に認められてそれでやっとなれるんだよ」
「正社員にですか」
「なれるんですね」
「そう、だからね」
そこまで大変だからだというのだ。
「それでやっと正社員になれたから」
「ここで、ですか」
「頑張られるんですか」
「そうだよ、俺も他の人達もね」
そうだとだ、蓑田は二人に話すのだった。そしてお客さんが来たのでそちらに向かった。
二人は蓑田から話を聞いた、しかし。
納得はしなかった、それで二人で顔を曇らせてだ。仕事帰りに話をした。
「絶対におかしいわよね」
「ええ、あのお店ね」
もう冬になっていた、その夜道に。
優花は闇夜に白い息を出しつつだ、花純に言った。二人共制服の上から厚いコートにマフラーで完全武装している。
「正社員になるまでそうで」
「しかも正社員になったらそこまで働かないといけないって」
「ちょっとね」
「絶対におかしいわよね」
「どう考えても」
「普通じゃないわよ」
「労働基準法どうなってるの?」
こうした言葉さえ出て来た。
「一体」
「あそこのお店どうなってるのかしら」
「本当にね」
二人でだ、蓑田から聞いた話を思い出しつつ異様なものさえ感じていた。それで二人は学校の先生学年主任の福本裕二先生、社会科の先生に聞いた、その店のことを。
するとだ、先生は二人にこう言った。
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