第三章
[8]前話
「和尚はどう思うでおじゃるか」
「今日のことでありますな」
「そうでおじゃる、和歌に免じて許したでおじゃるが」
言うのはこのことだった。
「あれでよかったでおじゃるか」
「はい、あれでよかったと思います」
雪斎は義元の問いにこう答えた。
「あの責は許すものでした」
「しかしそう簡単に許してはでおじゃるな」
「家中が緩みますので」
罪を犯しても簡単に許されると家臣達が思えばだ。
「ですから」
「簡単には許してはならなかったでおじゃるな」
「それで」
「あそこで、何かをするかさせて許すべきでおじゃったが」
「和歌を詠みました」
あの家臣がというのだ。
「殿が和歌を解すると知っているが故に」
「あえて和歌を出したでおじゃるな」
「これが媚ならば」
「麿は罰したでおじゃる」
義元もだ、そうしていたというのだ。
「媚は歌に出るでおじゃる」
「はい、歌はそのまま詠った者を出しますので」
「それは麿にもわかるでおじゃる」
「しかしあの歌は」
「それがなく。ありのままの心を詠ったでおじゃる」
「だからこそですな」
「許したでおじゃる」
そうしたのだ、義元も。
「そして次に向かわせたでおじゃる」
「そうでしたな」
「これでよかったのなら何よりでおじゃる。ただ」
ここでだ、義元は酒を飲みつつだ。
その首を少し傾げさせてだ、苦笑いになってこうも述べた。
「肝心の歌は。麿から見れば」
「少し、ですな」
「出来は物足りなかったでおじゃる」
その歌の出来はというのだ。
「あの場では言わなかったでおじゃるが」
「それでもですな」
「それは言わないでおじゃる、その心に免じてでおじゃる」
「そこも許されましたな」
「責は笑って、歌の出来は片目を瞑って」
その様にしてだった、義元は。
「許したでおじゃる」
「それがよかったかと」
「そうでおじゃるな」
義元は笑いつつまた飲んだ、それでこの場を終わらせたのだった。
今川義元といえば公家そのままの格好をして公卿達と親しみ都の文化を愛したことでも知られている。桶狭間でのことから織田信長の引き立て役になっているが。
こうした逸話もある、ただ敗れただけの者ではない。和歌を愛した彼に相応しい逸話であると言うべきか。
今川風流 完
2015・2・22
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