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空からのお礼
第五章

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 苦い顔で被災地を後にしていく、誰もがそうした顔になっていた。
 だが、だ。ふとだった。
 奥羽はトラックの助手席にいたがだ、そこから。
 たまたま顔を窓から出した、すぐに運転している飯塚が言って来た。
「おい、顔を出すな」
「はい、ただ」
「ただ、何だ?」
「ちょっと前が気になりました」
「何もないぞ」
 運転しつつだ、飯塚は奥羽に言った。
「別にな」
「そうですけれどね」
「それで何があったんだ」
「いや、何か気になって」
「横か上に何か見たか?」
「横は何も」
 飯塚に言われるまま横を見た、横には何もなかった。
 しかしだ、上を見てだった。奥羽は驚いて言った。
「いや、あれは」
「何だ?雨か?」
「雨じゃないですけれど」
 晴れている、天気自体はよかった。しかしだ。
 その雲が幾つかある青空にだ、彼等がいたのだ。
「二曹、凄いですよ」
「凄い?何がだ」
「いや、上にです」
 その空にというのだ。
「凄いのがいまして」
「だからどう凄いんだ」
「上を見て下さい」
「全く、運転してるのに見られるか」
 飯塚は奥羽に怒った顔で返した。
「そんなの見て言え」
「すいません、それは」
「それで何が見えるんだ」
「ですから」
 奥羽が答えようとした、だがここで。
 連隊長がだ、部隊に指示を出した。
「全車両一旦停止だ」
「?どうしたんだ?」
「総員車両から出ろ」
 連隊長は通信で各車両にこうも指示を出した。
「いいな」
「何かあったのか?いや」
 飯塚はここで奥羽に顔を向けて言った。
「御前の言うことか」
「はい、そうだと思います」
「じゃあとにかくか」
「今は、ですね」
「トラックを停めてか」
「外に出ましょう」
 こうしてだった、一旦だ。 
 部隊は全車両停止してだ、そのうえで。
 外に出た、すると。
 自分も外に出ていた連隊長がだ、隊員達に言った。
「上を見ろ、空をな」
「ほら、俺の言った通りですよね」
 連隊長の言葉を受けてだ、奥羽は飯塚に笑って言った。隊員達は被災地を出て暫くいった道のところにいる、車両は彼等の他にはない。
 その道の上に出てだ、そのうえで。
 隊員達は上を見上げた、その青空を。そこにあったのは。
 鳥達だった、白い鳥達がだ。
 隊員達の上でだ、何十羽も円を描いて飛んでいた。その鳥達を見上げてだった。
 飯塚は少し呆然としてだ、こんなことを言った。
「まさか」
「ひょっとして、ですよね」
「あの鳥達は俺達に」
「感謝してくれているのかも知れないですね」
 救助活動、復興支援にあたってくれた彼等をというのだ。
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