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禁じられた恋
第三章
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「僕は幸せだよ」
「そうですね、ただ」
「これはまだ、だね」
「キャリアの途中です」
 終着点でなくて、通過点だというのだ。
「それに過ぎません」
「そうだね、バイロイトにも行くし」
 ワーグナー歌手、そしてワーグナーを愛する者達にとっての聖地だ。何しろそのワーグナー本人が自分の作品を上演する為だけに造った歌劇場だからだ。
「通過点だね、スカラ座の」
「そうです、それに」
 ヴィルフガッセンにだ、デュルクセンはこうも言った。
「ヘルの目指すものは高い筈です」
「うん、ヴォルフガング=ヴィントガッセンの様な」
 大戦後最大のワーグナー=テノールと呼ばれている。その歌は録音されておりヴィルフガッセンもよく聴いている。
「ワーグナー=テノールになる」
「そのことを考えますと」
「今の時点でだね」
「満足するものではありません」
「そうだね、それに」 
 ここでだ、ヴィルフガッセンはデュルクセンにこうも言った。
「僕もそろそろ」
「ご自身のことですね」
「結婚しないとね」
「結婚は何か」
 デュルクセンはヴィルフガッセンに今度はこんなことを話した。
「それは人生の最大の喜びです」
「よき家庭を築き育むことが」
「それこそまさにです」
 冷静であるが真剣そのものの口調だった。
「人生の最大の喜びであり神の御教えの実現なのです」
「ルターもよき家庭人だったしね」
「ヒトラーやスターリンはどうだったのか」
 デュルクセンは悪名高き独裁者達の名前をここで出した。
「そしてロベスピエールは」
「三人共家庭人ではなかったね」
「はい、幸せな家庭なぞ築けませんでした」
「そして後世に悪名を残した」
「そのことを考えますと」
「まずよき家庭を持つことだね」
「それが人間として、神の羊としての第一歩なのです」
 こうヴィルフガッセンに話すのだった、スカラ座の前で。
「ですからヘルもです」
「家庭もね」
「そろそろ持たれてはどうでしょうか」
「かなり前向きに考えているよ、だからね」
「出会いをですね」
「これでも探しているんだよ」
 ヴィルフガッセンも真面目にだ、デュルクセンに答える。
「その相手の人をね」
「頑張って下さい、そちらも」
「うん、そうさせてもらっているよ」
「その様に、では」
「うん、これからね」
「スカラ座に入りましょう」
 まずは支配人や監督に挨拶をした、そして共演者やオーケストラの諸氏に。二人はこうした礼節はしっかりとしていた。
 そのうえで練習をはじめた、その他の今回の舞台の演出や演技、衣装のことの打ち合わせもした。そしてだった。
 彼は主役、タイトルロールとして周りと何度も慎重に打ち合わせをした。それは共演者達に対しても同じだった。
 それは敵役に
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