5部分:第五章
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第五章
「着きましたけれど」
「あら、早いわね」
「まあ慣れた道ですし」
着いたのはテレビ局であった。用があるのはここの楽屋なのである。
「ここ来る人多いんですよ」
「でしょうね」
「貴女も業界の方ですか?」
運転手は尋ねてきた。
「どうもそう見えるのですが」
「見えるのかしら」
「モデルさんではないですよね。顔やスタイルはともかく」
「生憎ね」
その言葉にはすっと笑って返す。
「違うわ」
「やっぱり。じゃあ業界ですね」
「そんな雰囲気かしら」
「ええ、まあ」
この業界は実は裏の世界と関わりも深いのだ。ある国民的歌手の母親が関西の暴力団の親分と話をつけたこともある。また映画撮影では普通に協力して観客が撮影の邪魔をしないようにしていた。今ではかなりなくなっていてもその名残りはまだあるものなのだ。時折そうした話が噂に出ることからもそれはわかる。
この運転手は沙耶香にそれを感じていたのだ。だがこれは間違いであった。沙耶香がいるのは裏の世界ではなく夜の世界であるからだ。漆黒、いや濃紫の世界なのである。
「じゃあこれで」
「ええ」
金を払って車を後にする。そのまま自然にテレビ局の中に入る。
「あの」
中に入ると普通の会社の受付であった。ただし受付の女の子は他の会社に比べて幾分奇麗なようにも感じられる。これは容姿を重視するテレビ局故であろうか。
「堀江瞳ちゃんの事務所の関係者だけれど」
「佐久間事務所のですか?」
「そうよ。それで瞳ちゃんに様があるのだけれど」
虚実を入り混ぜた言葉であった。正確に言うと事務所の関係者とは言い難いからだ。捜査を要請されていて話は通じるのであるが。
「何処かしら」
「今は生番組の収録中でして」
「お昼なのに?」
「お昼だからですよ」
受付の女の子はここでにこりと笑ってきた。
「あの番組がありますから」
「あの番組?あれのことかしら」
そこで思い出したのはあの歯磨き粉や石鹸を作っている会社がスポンサーの番組である。男前とは言えず小柄であるが妙に人間味があり憎めないタレントが長い間頑張っている番組である。このタレントは病気になった時も口さがないネットの住人達からも早い回復を皆で言われた程である。沙耶香も男性としては好みではないがその性格はかなり気に入っているのである。
「はい、あれです」
受付嬢はにこりと笑って言葉を返してきた。
「今丁度放送時間ですね」
「そうね」
懐から懐中時計を出して見る。見ればそんな時間であった。
「けれどどうしても用件があってね」
「はい、それでは」
「ええ、場所を教えてくれないかしら」
「身元は証明できますか?」
「私の?」
「はい、そういう規則ですので」
「事務所の関係者でもね」
「何か
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