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逆さの砂時計
リースリンデ
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んだわ。
 だから傍に居ても怖くないし、嫌悪感も忌避感も湧いてこない。
 むしろ、二人に触ってると私まで護られてるみたいで安心する。
 アリア様に感じてた以上の、聖天女様とよく似た力も持ち歩いてるし……
 本当に、不思議な二人組。

 うん。
 クロスは、嫌いじゃない。



「はい。どうぞ、リース」
「? これは?」

 教会でのお仕事を終わらせたクロスが、私に何かを持ってきてくれた。
 口のほうをくるくる丸めてた茶色の紙袋から取り出してみせたのは。
 銀色の(ふた)が付いた四角い透明な器にたっぷり入ってるハチミツ。
 朝露が飲めるならもしかして、って理由で買ったみたい。

「少しでも力になればと思ったのですが、受け付けませんか?」
「ううん。朝露に比べれば劣るけど力になるし、いつでも飲める分だけ少し楽になるよ。ありがとう」
「良かったです」

 クロスがニコッと笑うと、本当に柔らかな表情になるんだ。
 細めた金色の目が、夜の闇に瞬く星明かりみたいで、すっごく綺麗。

(ふた)を軽く外しておきますね」

 ひねって着脱する金属のフタを一度外して、器の上にぽんと乗せる。
 それを、植木鉢の横に置いてくれた。

「ちょっと、試してみる」

 花弁を降りて土に着地。
 鉢からも飛び下りて、私の目線ほどの高さにある(ふた)を除けてみる。
 足で踏んばることに慣れてないせいか、薄いわりには重く感じる。
 人間の足に指が生えてる理由、なんとなく分かったかも。

「皿か何かに一回量ずつ移しておいたほうが良いでしょうか?」
「大丈夫。よい……、っしょ」

 器をよじ登って、(ふた)が付いてた部分に腰掛ける。
 ハチミツ特有の甘い匂いが鼻を衝いた。
 黄金色のとろりとした液体を指先に絡めて、ペロッと舐めてみる。
 甘い中にもわずかに混じる独特の刺激が、ちょっとだけ懐かしい。

「泉の周りでも、たまにだけど仲間と一緒に食べてたの。美味しい」
「よく、ハチに攻撃されませんでしたね?」
「ハチは精霊を攻撃しないわ。精霊もハチを攻撃しないし。共存する相手に過分な手出しをしないのは当たり前だと思うけど?」
「……なるほど」

 不思議なことを尋くのね。
 ……と、思ったけど。
 ハチは本来、防衛本能が強い生き物だったっけ?
 実際、この容器に入ってる分だけでも確実に搾取されてるんだし。
 人間がハチに敵意を向けられるのは当然の報いだわ。

 人間だって、自分の食料を他人に奪われたら怒るでしょうに。
 『限度』って言葉の意味も忘れたのかしら。

「それにあやかってる私も、今は言える立場じゃないか」
「はい?」

 あ。うっかり声に出してしまった
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