17部分:第十七章
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第十七章
沙耶香の蘭の庭に飛び込む。すると蘭達が一斉に浮かび上がった。
「!?これは」
「これが蘭の甘い毒よ」
沙耶香は理子に纏わりつく蘭の花を面白そうに眺めて答えた。
「言い忘れていたけれどこの蘭は特別なのよ。遅効性の毒があってね」
「毒・・・・・・!?まさか」
「そう、そのまさか。死にはしないけれど動けなくなるわよ」
「くっ、そんな花を」
「侮ってもらっては困るわ。私は魔術師なのよ」
口元に涼しげだが凄みのある笑みが浮かんでいた。目も微かに細まっている。
「普通の花を出したりはしないわ」
「ううっ」
慌てて沙耶香の側から離れて欄を手で払い落とす。身体を震わせる様が狸を思わせた。
「理子、大丈夫?」
紀津音が理子のすぐ後ろまで来て声をかける。
「ええ、すぐに逃げたから」
「そう、よかった。けれどこの花は」
「出来る?」
「やってみるわ」
真剣な顔でパートナーに答える。そして今度は彼女が仕掛けた。
「魔性の花でも花は花」
狐火を放ってきた。
「火で燃えないものはないわ」
それで沙耶香の蘭を焼き払おうとする。青い火が瞬く間に夜の闇の中黄色い月の光を受ける漆黒の花々を燃やしていく。
それは沙耶香の周りにも及ぶ。すると彼女はその身体を夜の闇の中に消えた。
「消えた!?」
「まって、紀津音」
身体を無意識のうちに出そうとする紀津音を理子が止める。
「迂闊に前に出たら駄目よ」
「そうね」
それを言われて動きを止める。その背中に理子が来た。
「隙を見せないで。きっと仕掛けてくるから」
「そうね。どう来るのか」
二人は背中合わせになった。それで死角を消して沙耶香の襲来に備えるのであった。
その態勢のまま沙耶香を待つ。すると周りに霧が起こってきた。
「霧!?」
「いえ、何かおかしいわ」
見ればその霧は普通の霧ではなかった。夜の闇そのままの漆黒の霧であったのだ。それが今街の中に漂いだしたのである。
「この黒い霧は」
「迂闊に動いたら駄目よ、紀津音」
理子は背中にいる紀津音にこう言った。
「動けば。向こうの思う壺よ」
「そうね」
「ふふふ、そのまま動かないのね」
ここで沙耶香の声がした。だが姿は見えない。
「動かないのならそれでいいわ」
「どういうこと、それ」
彼女の声に紀津音が問う。
「この霧がまさか只の霧とは思ってはいないでしょうね」
「くっ」
「黒は死の色」
沙耶香の声は語る。
「その中で眠るというのはどうかしら」
「生憎そうはいかないわよ」
紀津音はそれにキッとして言い返す。
「こっちだってね、伊達に魔力持っているわけじゃないのよ」
「見せてあげるわ、こっちもね」
理子も言う。二人もこのまま待っているだけで
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