14部分:第十四章
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第十四章
後ろから聴こえるのはジャズではなくムード歌謡曲である。バラード調の曲が洒落た現代風の雰囲気の店によく合っていた。その中で一人自分と同じ色のカクテルを口にするのであった。
「ねえお姉さん」
曲と酒に浸る彼女の横から声がした。
「聞きたいことがあるのだけれど」
「あら、自分から来たのね」
沙耶香は声がした方を振り向くことなくこう呟いた。
「明日にでも私の方から行こうと思っていたのに」
「何か色々感じたから」
「それで自分達から来てあげたのよ」
声は一人ではなかった。もう一人、合わせて二人であった。
「まさかお姉さんだったとはね」
「少し驚きよ。普通の人だと思ったのに」
「普通の人だったらどうしたのかしら」
沙耶香は相変わらず振り向くことなく声に尋ねる。
「別に」
二人はその問いには特に敵意も悪意も見せては来なかった。
「何もしないわよ」
「命をどうとかってのはあたし達の流儀じゃないの」
「そうなの」
「それはわかってると思ってたけど、お姉さんなら」
「そうじゃなくて?」
「そうね」
沙耶香は口元と目元を微かに歪めて笑った。
「それは否定しないわ」
「やっぱり」
「じゃああたし達の言いたいことはわかるわね」
「ええ」
それを聞いたうえでこくりと頷いた。
「時間は何時がいいかしら」
そして二人に問うた。
「明日ね。夜でしょ」
「ええ、じゃ明日の夜」
「場所はね」
「私は何処でもいいわよ」
沙耶香はそこは二人に任せた。
「何処でもね。さあ、何処かしら」
「そうね、渋谷はどうかしら」
「渋谷に」
「場所は道玄坂」
一人が言った。
「そこならあたし達にぴったりでしょ」
「ふふふ、面白い場所を選ぶのね」
「あら、ぴったりじゃないの?」
声のうちの一人が言う。
「あたし達には」
「じゃあ明日の夜道玄坂ね」
もう一人が言った。
「待ってるから」
「それじゃあね」
「ええ、楽しみにしてるわ」
コーヒーカクテルを飲み干しながら答えた。
「ただ。今日はどうするの?」
沙耶香は空になったグラスを手に持ちながら二人に尋ねた。
「このまま帰るのかしら。まだ夜は長いのに」
「楽しみは明日よ」
二人は沙耶香にそう答えた。
「焦らないのは貴女の流儀じゃないのかしら」
「だからあたし達も合わせているのに」
「そうね。そう言われればそうね」
沙耶香自身もそれに頷いた。
「それじゃあ今日は一人で楽しむとするわ」
そしてこう言った。
「残念だけれどね」
「まあ焦らないことね」
声達は楽しそうに言う。
「明日は本当に楽しくなるから」
「舞台は渋谷道玄坂」
「とっておきのステージを用意しておくわ」
「ええ、期待して
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