暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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〜銃声と硝煙の輪舞〜
再決意、再決心
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準無菌室状態の中、その男はヨレヨレの真っ黒な白衣を着用し、その奥に襟元を適当にはだけさせたワイシャツを押し込んでいる。

うっすらとだが無精ヒゲが浮かんでいるが、まだずいぶん幼さが残る顔からはそこまで老けこんだ印象を与えない。だがその代わりに、どんな場所どんな状況であっても拭いがたい異物感というべきものを男は常に発していた。

《鬼才》と度々呼ばれる男は、自分で組んだスーパーコンピューターのとっかかりに足を乗っけながら、椅子の背もたれを倒す。

今の今まで向かっていたスチールデスクに背もたれが激突し、その上から長々と連なった外国語が記されたレポートや資料、論文といった紙類やら、携行性能に特化した小さなマウスやら、今頃はだんだんと見かけなくなってきた鉛筆といった懐かしき文房具なんかが零れ落ちるが、男がそれに頓着した様子はない。

流し目でこちらを見る視線にこたえ、こちらはごくごく普通の女子大生にも見える女性が簡潔に答えた。

「……ひょっとして、ヒマになったか?」

「質問に答えろよ」

子供のように頬を膨らませる男の後ろでは、ポツンと据えられた小さな画面上で、今の今まで彼がやっていた米軍主体の研究プロジェクトの最終結果が表示されていた。

はぁ、と溜め息を吐き出しながら史羽は眼鏡のブリッジを上げながら口を開く。

「さぁな、数えきれないぐらいあるだろう。それに順序をつけてもな」

「いーやいや、違う違う」

首を振る代わりに乗っていた椅子を自分ごとクルクル回す男は、ノドの奥で笑い声を漏らした。

「お前の思ってるようなヤツじゃ、確かにそうだ。順序がつけられない。どれもが等しく醜く、悪しく、汚い。だが最悪じゃない」

「どういう意味だ?」

イージス艦に積む次世代型火器管制システムは完成した。敵国首脳陣の思考パターン予測すらもやってのけるこの《戦闘暗算(ドクトリン)》システムのおかげでアメリカの国防力は計算上、二十三.五パーセントほど向上したはずだ。……まぁ、『既存の世界』なら、という前提条件が付くが。

これで世界の警察サマも少しは黙るだろう、と思索を掘り下げながらどうでもよさそうに生返事する史羽に対し、つまりな、と長くほったらかしにして伸びっぱなしになっている髪をぼりぼり掻きながら、しかし回転するのは止めずに彼は口を開く。

「人の持つ最悪で、最恐で、最凶なものは、そういったものから切り離されたものなんだよ」

飄々とした言葉に、しかしなおさら史羽は首を傾げた。

彼女にとって人間の最も怖いところは、どこまでも果て無い欲望しかない。そもそも人間という種の歴史からそうではなかろうか。自分より大きく、力も強い相手を狩るため、人類は火を起こした。武器を作った。連携を取るために言葉も覚えた。

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